Kangaeruhito HTML Mail Magazine 161
 

『猪谷六合雄スタイル―生きる力、つくる力』
(INAX出版)

 まずは、前回のメールマガジンの訂正から。

 前回、伊丹十三監督の幻のデビュー作「ゴムデッポウ」をめぐっての、映画の出演者・市村明さんへのインタビュー記事をご紹介するなかで、私は以下のように書きました。

 
 市村さんのお話でいろいろなことが判明しました。伊丹さんの着ているジャケットは、「チロリアン・ジャケット」というものだそうです。伊丹さんと市村さんの間では、通称「綿羊」と呼んでいたらしい。市村さんと伊丹さんがしばしば一緒に出かけていた志賀高原のスキー場で、ヨーロッパ帰りの「ある人」がこのチロリアン・ジャケットを着て目の前を滑って行くのを二人同時に目撃し、「何てかっこいいんだ」と衝撃を受けた。その「ある人」がホテルに戻ってかけておいたジャケットを二人でこっそり盗み見たりもして、その出どころを探ったそうです。そして様々な経緯を経て、市村さんが勤めていた銀座のチロルという洋品店で、オーストリアの山奥にあるメーカーから直輸入して販売することになったらしい。

 そして、二人の前にそのジャケットを着て颯爽と現れた「ある人」とは、「考える人」04年冬号の特集「大人のための読書案内」で、加藤典洋さんがお勧めの一冊として取り上げた本の主人公・猪谷六合雄さんだった、というのです。猪谷さんは日本にヨーロッパ流のスキー術を紹介した大先達。息子さんの猪谷千春さんは日本で初めての冬季オリンピックのメダリストとなった人です(猪谷六合雄さんの本については、バックナンバーにあたってみていただければ幸いです。42ページに出ています)。

 
 実は、先週のメールマガジンを書いて、ホームページ上にもアップした直後、次号「考える人」用インタビュー原稿のチェックを市村さんご本人にしていただいたところ、電話でこんなご指摘をいただきました。「猪谷六合雄さんについてのところ、違うんです。私が言ったのはそういう意味じゃなくて、チロリアン・ジャケットを着ていたのは、猪谷さんと並び称される日本スキーの草分けの西村一良さんだったんです。もちろん志賀高原でも猪谷六合雄さんはスキーをされていましたし、お姿も何度となくお見かけしましたから、猪谷さんのお名前は出しましたが、チロリアン・ジャケットを着ていたのは西村一良さんなんです」。

 私の勘違いでした。申し訳ありません。お詫びして訂正いたします。

 そして、私の間違いが判明した翌日、amazon.co.jpから届いたのが、この『猪谷六合雄スタイル』でした。インタビューで久しぶりに名前を聞いた猪谷六合雄についてもう少し知りたいと思い、このブックレットを注文したところだったのです。このブックレットには猪谷六合雄自身が撮影したたくさんの写真が掲載されています。猪谷六合雄は自分で小屋を何度も設計し、建ててしまうという、自主独立の精神と技術を兼ね備えた人でした。1963年以降になると今度はライトバンを自分の手でキャンピングカーに改装し、そこで暮らしながら日本全国の好きなところにでかける、という旅を始めています。それは実に、猪谷六合雄が七十歳を過ぎてからのスタートなのです。その具体的な様子が、この一冊で手に取るようにわかります。
 猪谷六合雄の書いた本を読んでいるだけでは見えてこない、猪谷六合雄の自由でとらわれない生き方の足跡が視覚的に辿ることのできる本。これは「猪谷六合雄入門」の書として最適なものだと思います。「考える人」の次号(12月28日発売)から新連載の始まる、中村好文氏「小屋の流儀」にも連なる、つましく面白い生き方、暮らし方についての探究がここにはあります。私の勘違いをお詫びしつつも、猪谷六合雄の独特な人生をもう一度ご紹介したいと思い、本書を選びました。
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