Kangaeruhito HTML Mail Magazine 176
 人事異動について

 突然ですが、4月1日から「芸術新潮」の編集長も務めることになりました。4月からは「考える人」編集長との兼務、ということになります。

 何度か書いたことですが、「考える人」は編集部員全員が兼務で働いています。日常的には単行本や文庫の編集をしながら、一年に四回、「考える人」の取材や原稿書き、原稿受け取り、入稿、校了までを同時にやっています。「考える人」は、いわば「寄り合い所帯」の編集部なのです。私自身も去年は単行本を4冊、文庫本を5冊編集しながら「考える人」の編集作業をしていました。

「寄り合い所帯」とはいえ、「考える人」は片手間に出来るような仕事ではありません。単行本や文庫本の編集も待ったなしでやる、人まかせにはできない仕事ですから、「考える人」と重なる約一ヶ月間は、なんとなく非日常感の漂う一ヶ月になります。入稿から校了までの期間は、編集部員と一緒にテンションを高め、乗り切っていくしかない、という空気が満ちてきます。気心の知れた仲間ではありますが、「よくここまでやるなあ」と毎回頭が下がる思い。「考える人」編集部は、私にとって「日本代表チーム」的な、最強編集部なのです。

 したがって「考える人」編集部は、人事異動のために陣容が変わるということがありません。他の部署に異動する編集者もいますが、その後も変わらず編集に加わってもらっています。異動先の他部署の長の方々には、そのような実態について私から説明をし、引き続き編集に加わってもらうことをお願いしています。「そんなことやっている暇があったらこっちのことをしっかりやってくれ」と言いたくなったとしても不思議ではないのですが、他部署の長の方々の篤いご理解を得て、今までそのような問題も起こらず、ここまでやってくることができました。

 ところがです。どうも「兼務、兼務」と打ち出の小槌を振り回しすぎたらしい。「編集長も兼務で」という要請が、こうして我が身にふりかかってくるとは。

 もちろん4月以降も、「考える人」の編集部の陣容、編集方針は変わりません。単独のスポンサーになってくださっている株式会社ユニクロとの契約も無事更新が出来ることとなりましたし、次号以降も「満を持した」特集が控えています。実売部数も昨年度と較べて107%の伸びを記録することができ、「考える人」はいわば万全の態勢にあります。

 ただし、「考える人」と「芸術新潮」のそれぞれの編集部員は「大丈夫かなあ」「兼務の編集長なんてできるのかな」と心配しているに違いありません。最初、会社から編集長兼務を言い渡されたときは目が点になり私自身も「そんなことできるのか」と思いました。ですがしばらく時間が経って、だんだん楽観的な気持ちに変わってきています。「かえって面白いかもしれない」とすら思うようになりました。

「芸術新潮」と「考える人」はまったく種類の違う雑誌ではないからです。歴史と伝統という意味においては、壮年と少年ぐらいの差がありますが、ほんもの、本質に迫ろうとする編集姿勢については、この二つの雑誌はまったく同じ、という気がするのです。それぞれの雑誌の編集のあり方が、ひとりの人間を介して微妙な具合で交流することによって、それぞれが刺戟を受け、ヒントを得て、発想の転換をもたらすということもあるのではないか。

 まあ、実際の兼務態勢がスタートする前に、あまり偉そうなこと、楽観的すぎることを軽々しく並べるのはこれぐらいにしておきましょう。いずれにしてもしばらくは、それぞれの編集部員のみなさんの分厚い編集力の上にかつがれるようにして、私なりのペースで新しい仕事に挑戦してみることにしよう、と思っているところです。

「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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