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『ピタゴラ装置 DVDブック2』(小学館)

 知っている人にはこのタイトルを見せるだけであとは説明無用。知らない人には「何それ?」というものだと思います。「何それ?」とおっしゃる方は、NHK教育テレビの番組「ピタゴラスイッチ ミニ」月~金曜日の午前 8:10~8:15(再放送は午後 5:25~5:30)を一度ぜひご覧ください。番組のなかで、この「ピタゴラ装置」が登場します。

 右の表紙カバーをご覧いただいても少しは伝わるでしょうか。この装置は、文房具や本、空き缶、工作用木材、ひも、ビー玉、布、など、特別に注文して作る必要のない手近なモノを絶妙に組み合わせて、いちばん最初の動きを人の指の力でスタートさせると、ビー玉やら歯車やらが動きだし、その動き(エネルギー)が要所要所で別の動きを引き起こして、次に用意されている装置を動かしてゆく、という仕組みのからくり装置なのです。

 ピタゴラ装置を考案し工作しているのは、「考える人」の特集「『心と脳』をおさらいする」(No.13 2005年夏号)にインタビューで登場してくださった佐藤雅彦氏と、佐藤氏が教授を務めている慶應義塾大学の佐藤雅彦研究室の学生たちです。

 装置を使った「手の込んだ瞬間芸のつらなり」のような動きを見ていると、ふだんはまったく使っていないかもしれない脳のどこかが刺戟を受けてニンマリします。私の場合の装置の動きを見ての反応を言葉に置き換えればそのようなものになるでしょうか。短いものはあっという間に動きが終結しますし、長いものになると90秒におよぶものもある。

 長ければ長いほど、息をつめて見てしまうよろこびが持続しますが、だからといって一つの動きだけでパッと終わるものがつまらない、かと言えばそうではありません。ドミノ倒し的な発想だけでいけば、おのずと「もっと長いものを」という経済成長的な拡大主義に陥りかねませんが、そのあたりは佐藤雅彦氏ならではの美意識が反映されているのでしょう、ときおり「あっ」と思わせる「最短」装置も出てくるところが、ピタゴラ装置ならではの魅力のひとつ。

 番組では装置の仕組みを解説することはありません。しかしこのDVDブックでは装置の仕組みが図解入りで詳しく説明されており、テレビを見ただけでは「どうしてあんな動きが可能なのか」という疑問が「ははあ、そうなっていたのか。なるほど」と納得できるようになっています。

 それではこのように仕組みも情報公開されているピタゴラ装置が誰にでもできるか、と言えば、私は「それはどうだろう」と思っています。理由のひとつは上にも書いたとおり独特の美意識が装置の土台にはある、ということです。たとえば装置の「部品」として使われているモノたち。それはオートミールの空き缶であり、英語の百科事典であり、消しゴムつき鉛筆であるわけですが、その選択眼がすばらしいのです。さりげなく美しい。動き優先でなんでもかんでも導入してこない目に見えぬ美的規制が働いているために、ピタゴラ装置の各種に統一感が表れている。

 本書の「あとがき」で佐藤さんが「言語化されていない面白さを素直に感じる能力」と書いているように、言語化と数値化の世界に疲れたら、このDVDをご覧になると、気持ちよい脱力感を味わえると思います。
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