堀江敏幸さんの案内で、パリの書店をめぐりました。留学時代の堀江さんが散歩のたびに立ち寄った本屋さん、帰国後フランス文学の時評をしていたとき、急ぎの本を国際電話で注文すると、すぐに応えて送ってくれた店、1920年代に活動を開始した伝説的な出版社兼書店、公園で開かれる週末の古書市……そのなかのいくつかを、ここでちょっとご紹介しましょう。

 まずはサン・ジェルマンのラ・ユーヌ。創業は1949年、名高い二つのカフェ、〈ドゥ・マゴ〉と〈フロール〉のあいだという、これ以上望めないような場所にお店はあります。1階には文芸、人文、哲学関係の本が、階段をのぼった中2階にはアート、建築関係の本が並んでいて、今回めぐったなかでは比較的広い中型書店ですが、それでも東京の大型書店を見慣れた目にはこじんまりとして見えます。ここは書店員さんが優秀であることでも知られているらしく、堀江さんによると、「新刊で買いそびれたまま忘れていた良書を掘り出す楽しみを与えてくれるような棚作りがなされている」とのこと。詩集の充実ぶりも群を抜いています。

 もうひとつが、ポンピドゥー・センターの裏手にあるレ・カイエ・ド・コレット。店主のコレットさんの名を冠したこの書店を堀江さんが初めて見つけたのは、1989年秋のこと。ウィンドーには書評新聞でしか取り上げられないような地味な本があたりまえのように並べられ、作家を囲む会の案内がガラスのドアに貼りつけてあったそうです。この気骨ある書店コレットは、その後、近所に引越し、今回たずねたときには、以前よりずっと広く明るくなっていて、堀江さんを驚かせました。わたしたちがいるあいだにも、新刊を買いにきた近所のご老人、大学生風の若い人、いかにも読書人といった人たちがつぎつぎと入ってきて、この書店がみんなに愛されていることがよく伝わってきました。店主のコレットさんも若い書店員さんたちも、お客さんの質問に、ゆったりていねいに応対しています。いまでも朗読会やサイン会などのイベントをよく開いているそうで、壁には、自著のサイン会に訪れたドラノエ市長の写真も貼ってありました。

 パリには、特色ある品揃えの小さな書店がいまでもたくさん残っていました。なかに入ると、シンプルな文字組みの白っぽい背表紙がずらりと並ぶ落ち着いたたたずまいにほっとします。その理由の第一は、それぞれの本のデザインが騒々しくないということでしょう。ガリマール社のnrfシリーズのように、書名と著者名の文字組みだけという本も多いですし、写真やイラストがあしらわれていても、書名と著者名の文字組みを基本としていることがはっきりとわかるシンプルなデザインが多く、むやみににぎやかなものはほとんどありません。本が本らしくそこにある、その感じが、パリの書店の独特の落ち着きをもたらしているのだと思います。

 さて取材中、堀江さんのリュックはどんどん本で埋まっていきました。新刊書店ではじっくりと棚をみて買いそびれていた本を発見し、古本屋では、積み上げられた未整理本の山の上にちょこんとのったミシェル・トゥルニエの絵本をみつけ、科学書専門店の均一ラックから古い数学の教科書を拾いあげ……そんなふうにだんだん重くなるリュックを背負いながら案内してくださった「パリの書店めぐり」、どうぞお楽しみください。