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ジュリー・サラモン 中野恵津子訳
『クリスマスの木』(新潮社・絶版)
James Taylor at Christmas(columbia)

 今週は何冊か新刊本で候補があったのですが、「おすすめ」には一歩およばず……なんだか今日も東京は春のようにあたたかいので、はやく冬らしい気候になってほしいという願いもこめて、クリスマスの本とCDを選びました。

 最初に白状しておくと、『クリスマスの木』は自分が海外版権の担当者だったときに原作に惚れ込んで出すことにした本でした。でも残念ながらあまり売れず、増刷もできませんでした。その後、新潮文庫編集部が「タイトルが考えすぎだったんじゃないか。シンプルに『クリスマスツリー』にしてもう一度出してみよう」と考えてくれたらしく(これは私の想像です。どういう議論があったのかは知りません)、タイトルを変えて文庫化もされたのですが、これも不発に終わってしまったようで、現在はどちらも絶版です。

 原題はThe Christmas Tree。まさしく、クリスマスツリーです。しかしなぜ私が邦題を『クリスマスの木』にしたかと言えば、それはクリスマスツリーに選ばれる一本の木が物語の大きな役割を担っているからでした。物語の語り手はニューヨーク、ロックフェラーセンターの造園担当チーフ。彼の大きな仕事のひとつは、毎年のクリスマスシーズンに、ロックフェラーセンターを飾る巨大なクリスマスツリーをアメリカ東部のどこかから探しだし、その木の持ち主に交渉をして購入し、ニューヨークまで運び込むことでした。

 著者のジュリー・サラモンは実際にロックフェラーセンターのクリスマスツリーが毎年どのようにして飾られているのかを取材したのではないかと思います。ニューヨーク、マンハッタン五番街に面したロックフェラーセンターには、冬になるとアイススケートのリンクができ、子どもや大人がくるくると小さな楕円を描きながら滑る姿を、黄金のプロメテウス像が見下ろしています。そして冬最大のイベントは、プロメテウス像とリンクを見下ろすように立てられる巨大なクリスマスツリーの点灯式。しかしこの木が、毎年どこかから運び込まれる「生木」だったとは知りませんでした。

 物語にはもうひとり、重要な登場人物がいます。それは、造園担当のチーフが今年のクリスマスツリーにと選んだ「木」の持ち主、修道女のアンソニーです。彼女は幼い頃に修道院で暮らすようになった天涯孤独な人でした。アンソニーはこの「木」を幼木から丹精こめて育て上げた母親のような存在です。ふつうであれば、手放すことなど考えられません。

 しかし、物語ではアンソニーのもとを離れた「木」が、おごそかにロックフェラーセンターへと運ばれることになるのです。そして点灯式に列席することになったアンソニーは、その場所である劇的な「出会い」をすることになります。心の奥底で眠っていた、ある大切な記憶との出会いでした。

 私は版権出張の帰途の飛行機のなかで、『クリスマスの木』の原作のゲラを読んでいました。そして最後の場面にいたったとき、不覚にも涙が出ました。初めての娘を授かってまもなくの頃です。今おもえば、自分のそのような個人的な状況が、何かに過剰に反応してしまったのかもしれません。それにしても日本での結果は残念でした。アメリカでは今でも静かなロングセラーになっているようで、アマゾンドットコムをチェックしてみると、読者の高い評価がずらずらと並んで出てきます。

 おまけに選んだCDは、去年発売されたジェームス・テイラーのクリスマスアルバム。なぜかわかりませんが日本盤は発売にならなかったようです。クリスマスアルバムは様々な名盤がありますが、近年発売されたものでは私がいちばん気に入っているもの。なかでも8曲目に収録されているThe Christmas Song(Chestnuts Roasting On An Open Fire)は、昔から私の大好きな曲で、ゲストにはハーモニカのトゥーツ・シールマンスが参加しています。20世紀に歌われたものならばメル・トーメの、そして21世紀ではジェームス・テイラーのこのThe Christmas Songが、私にとっての定番になりました。
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