臨床心理学者、心理療法家としてだけでなく、昨年からは文化庁長官として多忙な毎日を送られている河合隼雄さん。京都と東京の間を行ったり来たりという過密スケジュールの中で、さぞかしお疲れではとご様子をうかがったところ、「僕は、荒唐無稽文化財と文化高齢者に指定されてますからね(笑)」と、あっさり駄洒落で返されました。

 本誌に連載中の「神々の処方箋」は、世界各国の神話に秘められたメッセージを読み解くシリーズです。第3回のテーマは、人間社会を二分している2つの性、ズバリ「男性と女性」。生物学的に分類される明らかな「差」以外に、男らしい、女らしいと規定されている文化的な「差」とは、いったい何なのか? それは神々の物語の中でどう形成されてきたのか? 第1回のプロローグ、第2回の創世神話論に続き、各民族の心の深層に光りを当てた、河合さん流のユニークな比較文化論が展開します。

 ここで思い出して下さい。子供の頃、みなさんは「男の子なんだから泣くな」とか「女の子らしくしなさい」とか、親からしつこく説教された経験はありませんか?(本当は泣き虫だった河合少年は、辛い時、悲しい時、涙をこらえるのに大変苦労したそうです) 近年の文化人類学の研究によって、「男らしい」「女らしい」と呼ばれているものは、どうも生来的なものから普遍的に形作られるのではなく、文化や社会によって異なることが分かってきました。「らしさ」を構築しているのは、社会や文化であるという考えです。生物学的な「性(sex)」と区別して、これは「ジェンダー(gender)」と呼ばれています。古代の人々が語り継いできた神話も、ジェンダーと無関係ではありません。

 世の中を二分するものの代表に太陽と月がありますが、神話の世界でいうと、太陽は男性神、月は女性神であることが圧倒的に多いそうです。例えば、ギリシャ神話の太陽神アポロンとその妹である月の女神アルテミス。数少ない例外が日本で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)は女性神で、その弟の月読命(つくよみのみこと)は男性神です。このあたりの違いはどこから来ているのか? ジェンダーの文化的背景として考えると、とても面白そうです。

 長官就任直後から、河合さんは『文化庁月報』に「文化庁の抜穴」というお役所らしからぬタイトルのコラムを連載していらっしゃいます(文化庁のHPで読むことができます。http://www.bunka.go.jp/)。「河合さんらしい」の個人的背景にご興味がある方は、こちらをどうぞ。