音楽好きの五人の方々に、心に残るアルバムをひとつあげていただきました。少しだけご紹介しましょう。

 保坂和志さんはフリージャズとの出会いだったセシル・テイラーの「インデント」。

サックスやトランペットを吹く瞬間、鍵盤に指があたる瞬間、筆がキャンバスに触れる瞬間、ペンが描く線が文字になる瞬間、とそれら瞬間に移行する途中のためらいやとまどい。……それらを感知する感覚あるいは洞察こそが革命なのではないか。

「クウネル」編集長の岡戸絹枝さんは、とがった耳のルドルフ・ゼルキン。小澤征爾指揮、ボストン交響楽団の「ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集」。

第二楽章。……始まってから二分を過ぎたピアノのソロに、私はいつも同じように胸がいっぱいになるのです。……ピアノはあふれる緑であり、光の粒でもあります。もうこうなると、なにかをしながら聴くことなどできません。この第二楽章に身をすべらし、全身をゆだねます。

 加藤典洋さんは、グレン・グールドの「バッハ ゴールドベルク変奏曲」。学生時代にレコードで聴いていたこのアルバムですが、現在手元にあるのはCD。その元の持ち主だった教え子の思いでをまじえて、40年をともにしてきたアルバムについて書いてくださいました。

 最相葉月さんは、大西順子トリオ「クルージン」。長い年月、愛聴してきたこのプレイヤーへの愛と敬意にあふれた原稿です。寺島靖国さんは、ご自身のレーベルから出された松尾明トリオ「アローン・トゥゲザー」。これぞ「ジャズの音」、というアルバムだそうで、71歳の寺島さんが20歳若返ったとか。エッセイ【この一枚】、どうぞお見逃しなく。