Kangaeruhito HTML Mail Magazine 396
 
 村上春樹さん

 予告では詳しく触れていなかった、次号(7月3日発売)の特集について、お伝えしたいとおもいます。特集タイトルは「村上春樹ロングインタビュー」。特集の全89ページをさいて、村上さんのロングインタビューを掲載します。テキストの分量を400字詰原稿用紙で換算すると約340枚。単行本一冊分の、みっしり言葉の詰まった特集になりました。

「考える人」では以前、2007年春号の特集「短篇小説を読もう」でメールによるインタビューをお願いしたことがあります。村上さんは、短篇小説をめぐる15の質問に丁寧な回答を寄せてくださいました。もっとさかのぼると、「新潮クレスト・ブックス」創刊と同時に刊行した新潮ムック「来たるべき作家たち」(1998年・絶版)でも、海外における作家活動をめぐってお話をうかがったことがあります。

 今回はテーマを絞るのではなく、ゆったりと幅広くお話をうかがいたいと思っていました。『1Q84』がつくりあげている世界と、その意味するものを考えるとき、村上さんの30年におよぶ作家生活の流れのなかに置いてみることが不可欠です。そこには、簡単には推し量ることのできない広がりがあり、奥行きがある。『1Q84』という作品にだけ絞ってお話をうかがっても、見えてこない部分があまりに大きいのでは、と感じたからです。

 村上さんはインタビューを引き受けてくださる返信のなかで、つぎのような言葉を引用されていました。The author should be the last man to talk about his work. つまり、作家は自作についてたやすく語るべきではない──。ここには、村上さんがこれまであまりインタビューを受けていらっしゃらなかった理由が、くっきりと表われていると思いました。この言葉を念頭におきながら、作品の謎解きや舞台裏の解説をもとめるような性急なかたちではないインタビューをしたい。しかも、自分を含む読者が、もういちど『1Q84』を読み直したくなるような……考え始めるときりがありません。

 インタビューは、5月11日から13日までの3日間、箱根で行われました。日常からちょっと離れた場所にこもっての、一対一でのロングインタビューです。村上さんはふだんはどちらかといえば口数の少ない方ですが、今回はほんとうにじっくりと時間をかけて、さまざまなことについて惜しみなく語ってくださいました。引き受けたからには、きちんと話しておこうという、迷いのない姿勢を感じました。

 というわけで、村上春樹ロングインタビューは、本日、校了作業を終える予定です。

 そして、私事になりますが、私が「考える人」の編集長をつとめるのは、7月3日発売の、この2010年夏号がさいごになります。秋号からは、先輩編集者の河野通和さんが新潮社に入社され、編集長を引き継いでくださることになりました。私は6月末で退社し、しばらくのあいだ長めの夏期休暇をとろうとおもっています。来年の春ぐらいからは、また何らかのかたちで出版や編集の世界に復帰して、仕事を再開できればと考えています。それまでは、音楽を聴いたり、本を読んだり、散歩をしたりして、ちょっとのんびり過ごせればいいなとおもっています。

「考える人」は創刊から九年目に入りました。これまで「考える人」を支えてくださったのは、読者のみなさんです。これからも「考える人」を引き続きご愛読くださいますよう、心よりお願い申し上げます。

 メールマガジンをご愛読くださりありがとうございました。来週からは新編集長・河野通和さんのメールマガジンをお送りいたします。
 
「考える人」編集長 松家仁之(まついえまさし)
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