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 都心のパワースポット

 年末年始の書店の店頭売上は、いつになく好調だったようです。業界紙によると、大手販売会社トーハンの調査では、12月29日から1月3日までの年末年始の売上が前年同期比6.1%増、日販も同期間で5.0%増で、大手書店などでも前年比プラスの声が多いということです。一昨年、昨年と前年同期比マイナスが続いていたことからすれば、嬉しいニュースには違いありません。新年早々から営業する書店が増えてきた影響もあるのでしょうが、お客さんの側にも少し意識の変化が現れているような気がします。比較的ゆったりできるお正月だからこそ、気になる本をまとめ買いして、少しでも読んでおきたいという人が増えているのではないでしょうか。年末に各誌紙が特集した昨年一年間のおススメ本のアンケートやランキングなどから目星をつけて、この時期に集中的に本を読む、という友人がいます。ビジネス雑誌の『週刊東洋経済』が1月17日発売号で「頼れる! 読書術」をいきなり特集しているのも、そうした空気を察知してのことかと思われます。

 さて、「考える人」のいまの特集「紀行文学を読もう」に合わせて、都内2ヵ所の書店でブック・フェアの展開が始まりました。神宮前にある青山ブックセンター本店と、駿河台下にある三省堂書店神保町本店です。先週末、さっそく様子を眺めに行ってきました。



 まずは青山ブックセンター本店です。赤坂の豊川稲荷に新年のお参りをして、その足で向かいました。ゆったりとした店内を眺めわたし、見当をつけて進んでいくと、大きく展開されていました。12月初めから熱心に取り組んでくださった担当者は寺島さやかさん。「いままでの『旅本』特集とは一味違うラインナップなので、紀行文学の歴史を俯瞰できるようなエキサイティングな棚をめざしました」。2月中旬までの予定だそうで、これからPOPを付けたり、さらに棚を“進化”させたいと意欲的です。近くには大竹昭子さんのコーナーもあって、こちらも寺島さんが手がけたとのこと。「自分で言うのもナンですが、良いコーナーになっていると思います」。

 三省堂書店のフェアでは、わが編集部もPOP作成などでささやかながらお手伝いをしました。「考える人」誌上で取り上げた本に加えて、編集部の面々が独自に推薦図書を挙げ、それに200字のコメントを添えました。どういう本の名前が挙がったか、といえば、それ自体がこのジャンルの裾野の広さを物語っています。

・西江雅之『花のある遠景―東アフリカにて』増補新版(青土社)
・杉浦日向子『江戸アルキ帖』(新潮文庫)
・門田修『海が見えるアジア』(めこん) 
・国分拓『ヤノマミ』(日本放送出版協会) 
・西原理恵子他『どこへ行っても三歩で忘れる 鳥頭紀行 くりくり編』(角川文庫)
・井上章一『ハゲとビキニとサンバの国―ブラジル邪推紀行―』(新潮新書)  
・星野道夫『イニュニック[生命]―アラスカの原野を旅する―』(新潮文庫)
・レドモンド・オハンロン『コンゴ・ジャーニー』(新潮社) 
・都築響一『珍世界紀行 ヨーロッパ編』(ちくま文庫) 

 また、この企画に“友情参加”してくれた「旅」の和久田編集長が村上春樹『遠い太鼓』(講談社文庫)を、営業部の担当者が塩野七生『イタリアからの手紙』(新潮文庫)をイチオシに挙げてくれました。ちなみに私は次の2冊を推しました。

・アルフレッド・ランシング『エンデュアランス号漂流』(新潮文庫)
〈1914年、アムンゼンらによる南極点到達に続いて、南極大陸横断に挑んだ英国人探検家シャクルトンら28名の男たちの壮絶なドキュメント。17ヶ月に及ぶ絶望的な漂流と、そこからの奇跡的な生還には圧倒される。「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る」――隊員募集のこの広告を見て5000人以上の志願者が殺到したという。草食系男子よ、本書を読んで目を覚ませ!〉
 
・太宰治『津軽』(新潮文庫・岩波文庫)
〈3週間の取材旅行をもとに書かれた、太宰治による故郷・津軽の探訪記。彼の本領が発揮された傑作です。卓抜な風景描写と登場人物の魅力もさることながら、圧巻は作品のクライマックス・シーン。幼い頃に本を読むことを教えてくれた子守のたけと30年ぶりの再会を果たす場面で、虚構の天才・太宰の真骨頂が鮮やかに示されます。東北新幹線も延伸しました。文庫本を手に、津軽鉄道へと乗り継いで、是非リアルな旅もしてみましょう!〉
 
 ランシングの『エンデュアランス号漂流』が残念ながら品切れになっていたために、フェアではアーネスト・シャクルトン『エンデュアランス号漂流記』(中公文庫)を置いていただくことになりました。また、三省堂書店の1F売場担当の雨宮雅美さん(今回のフェアの推進者です)や地図ガイド担当の方たちが「書店員おすすめ紀行文学」として取り上げた本のリストは、これまた実に興味深いものでした。

・柳田国男『遠野物語』(角川文庫)
・村上龍『村上龍料理小説集』(講談社文庫)
・夢野久作『犬神博士』(角川文庫)
・『江戸川乱歩全集第5巻 押絵と旅する男』(光文社文庫)
・坂口安吾『桜の森の満開の下』(講談社文芸文庫)
・泉鏡花『春昼・春昼後刻』(岩波文庫)
・川村二郎『白山の水』(講談社文芸文庫)
・寺山修司『花嫁化鳥』(角川文庫)
・唐十郎『佐川君からの手紙』(河出文庫)
・網野善彦『古文書返却の旅』(中公新書)
・小松左京『高砂幻戯』『くだんのはは』(ハルキ文庫)
・澁澤龍彦『高丘親王航海記』(文春文庫)
・中井英夫『悪夢の骨牌』(講談社文庫)
・宮田珠己『わたしの旅に何をする。』(幻冬舎文庫)
・谷崎潤一郎『潤一郎ラビリンス6 異国綺談』(中公文庫)
・佐藤春夫『美しき町・西班牙犬の家』(岩波文庫)
・芥川龍之介『河童・或阿呆の一生』(新潮文庫)
・川端康成『浅草紅団・浅草祭』(講談社文芸文庫)
・「SWITCH」2003年12月号「特集・沢木耕太郎」

 しぶいラインナップに思わず唸りました。わけても網野善彦『古文書返却の旅』(中公新書)は、よくぞ選んでくださったと感激もひとしおでした。こうして大きく展開された飾り付けを前にすると、改めて書物の世界の広がりを実感します。こちらは2月11日頃まで開催されている予定です。

 2軒の書店をハシゴしながら、本を通じて人と人をつなぐ“リアル書店”の空間の面白さ、橋渡し役としてのありがたさに励まされる思いがしました。この先いくつかの書店でも、同様のフェアを検討していただいているようですが、両店のお近くへお出かけの際には、是非お立ち寄り下さい。壮観である、という視覚的なインパクトのみならず、知のツボを刺激する都心のパワースポットとして、自信をもって推薦したいと思います。
 
「考える人」編集長 河野通和(こうのみちかず)
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