この特集のユニークなところは(手前味噌ですが)、幅ひろいジャンルから魅力的な著書・評伝をもつ科学者ばかりを100人集め、しかも「この科学者なら、この本」と書き手自身に選んでいただいたこと。若い日にこころ動かされた、あるいは年を重ねた今しみじみ味わう「この一冊」とは? ほんのさわりだけご紹介しましょう――。

牧野富太郎『植物随筆 我が思ひ出』

「『私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います』。(中略)一項目ずつ読んでいくうちどこか暗く広い場所をゆっくりと旅している感じがしてくる」(いしいしんじ)

小平邦彦『怠け数学者の記』

「私がただ一冊を選ぶとすると、何と言っても『怠け数学者の記』である。……“私にとって数学の本(論文も含めて)ほど読みにくいものはない”……私達数学者はこれを読んでまず『自分達が難しく思うのは当然なのだ』と勇気づけられる」(藤原正彦)

石田五郎『天文台日記』

「観測はすべて手作業。人智の赴くところにだけ星が微笑んだ。石田はときにリルケを諳んじ、狂言の詩句を口ずさみながら、星と対話した」(岡崎武志)

三木成夫『胎児の世界』

「三木成夫の人体発生学は、混沌の故郷を探すような奇妙な懐かしさがある。母胎恋情とでもいうか。文章に学者には珍しい情念がこもっていて、文学を読むような実感も催す」(村田喜代子)

朝永振一郎『鏡の中の物理学』

「文章は、理系オタクにありがちな論文調とはほど遠く、ふかふかの絨毯の上を素足で歩くような心地よさがあった。(略)これまで体験したことのない知的世界が『腑に落ちる』瞬間は、まさに感激ものである」(竹内薫)

中谷宇吉郎『中谷宇吉郎随筆集』

「中谷宇吉郎は『雪は天から送られた手紙である』という文句を好んで揮毫した。(略)研究の楽しさを説くと同時に非科学的であることの愚を告発するその姿勢は、研究者が実践するサイエンスライティングのお手本というべきものだろう」(渡辺政隆)

100人の科学者への興味が深まるのはもちろん、ここに挙げられた本を読んでみたくなること請け合いです。100人それぞれのポートレートもじつに味があって、ぜひご覧いただきたいと思います。