10年ほど前に刊行された神沢利子さんのエッセイ集『おばあさんになるなんて』は、タイトルそのものが老いというものの定義になっているようで、深く印象にのこりました。いつからか自分の年齢にびっくりするようになりましたが、もっと年をとっていっても、それはおなじなんだな、なるほど老いというのはそういうものなんだな、と思ったのです(おなじことを、橋本治さんがこの特集のインタビューでずっと面白くおっしゃっていますので、そちらもぜひごらんください)。

『おばあさんになるなんて』が出たとき、神沢利子さんは75歳。それから10年後、さらにおばあさんをつづけていらっしゃる神沢さんにお話をうかがいました。神沢さんは樺太育ちの児童文学作家。『くまの子ウーフ』『ちびっこカムのぼうけん』『いたずらラッコのロッコ』などの神沢さんの作品を、ご自分の子ども時代、あるいはお子さんの小さいとき、お読みになった方がおおぜいいらっしゃると思います。その神沢さんの創作の源泉は、子ども時代の樺太での日々にありました。

 わたしが育ったのは戦前の樺太です。いまとなっては6歳から13歳までの、いちばん感じやすい時期をあそこで過ごしたことがほんとうに幸せだったと思います。何もなくても自然だけはいっぱいある。外に行けば、野ばらや、ハマナスのような大きな赤い花がいっぱい咲いているし、ユリも咲いている。……美しい花が一面にあって、いくらとっても花が絶えるということなど考えられもしなかった。あのなかで遊び暮らしたというのは、幸せなことでした。

 80歳を前にして刊行された絵本『鹿よ おれの兄弟よ』は、シベリアの森に生まれた若い猟師の、鹿を狩り、鹿ととともに生きる暮らしを、雄大で繊細な自然のなかに描き出した、大人がぜひ読みたい傑作です。この作品からも、神沢さんが幼年時代、いかに多くの養分を北方の自然からうけとっていたか、そしてそれが長年にわたる作家生活でどれほど豊かに育っていったかが、あふれるように伝わってきます。

 昔からかきたいと思いながらなかなかかなわない、ごく小さい子どものためのお話のこと、おばあさんにはいったい何歳からなれるのかということ、年をとってよかったこと……などなど、85歳のうつくしい児童文学作家の、ユーモアあふれるお話に耳を傾けていただければと思います。