新約聖書学者の田川建三さんは、二千年前の古文書としての新約聖書と真正面からむきあって、そこに描かれた反逆者としての生身のイエス像を探り当て、日本の聖書学の地平を切り開いてきました。『イエスという男』『書物としての新約聖書』など田川さんの多くの本は、そのずっしりとしたボリュームとかなりの歯ごたえにもかかわらず、ロングセラーとして多くの人々に読み継がれています。それをみても、田川さんの仕事が一部の専門家の人々のみならず、現在に生きるわたしたちにとって大きな意味をもつものであることがわかると思います。

その田川さんがいまとりくんでいらっしゃるのが、新約聖書の個人全訳に詳細な註と解説を加えた全6巻の『新約聖書 訳と註』(作品社)です。『第一巻 マルコ福音書/マタイ福音書』『第三巻 パウロ書簡 その一』『第四巻 パウロ書簡 その二/擬似パウロ書簡』の三冊がすでに刊行されており、今年の暮れには『第二巻 ルカ福音書/使徒行伝』をお出しになる予定です。

これほどの仕事を年に一巻ずつかたちにしていくのは、並大抵のことではないでしょう。だいじなお仕事のさまたげになるのではと案じつつ、恐る恐るインタビューをお願いしたところ、幸いにもなんとかご了解いただき、幼少のころから、少年時代、青年時代、フランスのストラスブール大学での留学生活、そしてザイールのキンシャサで教鞭をとっていたときのこと……などなど、これまで歩んでこられた七十余年の道のりとそのゆるぎない聖書観について、5時間に渡ってじっくりとお話をうかがうことができました。グラビアもあわせて27ページとなった巻頭のロングインタビューの、一部をここにご紹介しておきましょう。

(聖書というのは)ほとんど古文書ではなく、古文書そのものです。だって二千年前に書かれたものですよ。印刷されたものを見ると違う感じになるかもしれませんが、写本で見たらまさに古文書を扱っているということが実感できるでしょう。私がやりたかったのは、読者の方にまさにこれは古文書なんですということを伝えたかったんです。

 
5時間のインタビューを終えたわたしたちに共通した思いは、「もっともっと田川さんの話をうかがっていたい!」でした。その一週間後、標高千メートルを超える山あいにある仕事場をおたずねし、撮影させていただいた写真も今回いろいろとご紹介しています。いつものように台所ちかくのテーブルで仕事をなさっている様子や長年つかってきた辞書類やテキストの数々、毎日散策なさっている森のなか……ぜひごらんください!