本連載のキーワードは、タイトルにあるように「レッドアロー」と「スターハウス」です。
 前者の「レッドアロー」は、大手私鉄の西武鉄道が、西武池袋線の延長として秩父線を開通させたことに伴い、1969年に池袋―西武秩父間に走らせた、初の座席指定特急の名称。
 後者の「スターハウス」は、団地における建物のひとつの形態で、上から見るとY字型をしており、その見た目から「星形住宅」とも呼ばれます。団地の大半が、四階建ての直方体型の建物が占めるなか、この「スターハウス」は異彩を放っています。1956年大阪府堺市の金岡団地に建てられたのをはじめに、以降いくつかの団地に「スターハウス」は建設されました。
 つまり、「レッドアロー」は「西武鉄道」を、「スターハウス」は「団地」を象徴しています。この両者、「西武鉄道」と「団地」から、戦後思想史を読み解いていこうというのが、本連載「レッドアローとスターハウス」です。
 主に、1950年代後半から1970年代前半にかけて、東京西部の郊外を走る西武鉄道沿線には、総戸数2700を越えるひばりが丘団地をはじめ、東久留米、久米川、新所沢など、次々とマンモス団地が形成されました。それに伴い、都心から多くの人間が郊外の団地へと移り住み、新たなそして独特の「空間」が醸成されていきました。その「空間」――つまり西武沿線の団地群――に光をあて、そこから戦後思想史のある断面を導いていくのですが、「戦前からしばしば言説化されてきた中央線沿線に対して、西武沿線の歴史が語られることは圧倒的に少ない」と著者が述べているように、この「空間」に焦点を絞り、戦後思想史を読み解こうという試みは初めてのものです。
 連載は2010年10月に発売の号で、第九回を数えようとしていますが、すでに多くの興味深いトピックについて触れています。 
・清瀬市の病院群と共産党。及び、ハンセン病患者施設の「多磨全生園」
・共産党の上田耕一郎と不破哲三が育った町、野方で結成された「中野懇談会」
・ロンドン郊外の田園都市と、モスクワ郊外の集合住宅。東急的郊外と西武的郊外
・「西武鉄道の天皇」、創始者・堤康次郎
・久米川団地、新所沢団地、そしてひばりが丘団地の誕生
・革新化していく団地住民
 自身も、ひばりが丘団地や滝山団地といった西武鉄道沿線の団地で生まれ育った著者が(講談社文庫『滝山コミューン一九七四』)、なぜ「あの場所」に「あのような思想」が根付いていったのか、積年の疑問に決着をつけるため、毎回力のこもった原稿を執筆中です。