Kangaeruhito HTML Mail Magazine 672
 
 おかげさまで、「おわりとはじまり展」
 
 本を読む時に、「まえがき」と「あとがき」を、最初に読みたくなるのはなぜでしょう。時には本のcontentsにもまして、その1冊が書かれなければならなかった動機や目的のほうが、「知りたいこと」であったりします。あるいは、ひとつの大仕事をなし遂げた著者本人の言葉をまず聞いてみたい、と思うこともしばしばです。読者にとって「本」という存在は、おそらくそのbeforeとafterをふくめた物語のすべてなのかもしれません。全部をひっくるめた総体が、本をめぐる「読書空間」なのかもしれません。

 そんなことを、改めて考えさせられる3日間でした。といっても、本そのものの話ではありません。「考える人」リニューアル記念のイベントで、ふと気がついたヒントです。
 

「ほぼ日刊イトイ新聞」の全面的な協力で、4月15日から17日まで、南青山にあるTOBICHI2で開かれた「おわりとはじまり展」が無事に終了しました。「おわり」と「はじまり」は雑誌が装いを新たにしていく一連の流れを示した言葉です。今回のイベントはそのリニューアルという出来事に、いわば「まえがき」と「あとがき」をつけてくれました。以下は、その報告であるとともに、この文脈を見出してくれた人たちへの感謝を述べる機会にしたいと思います。

 かなり急で、乱暴なお願いでした。「雑誌をリニューアルする。ウェブ版を立ち上げる。そして今後はイベントも重視する」と宣言したものの、編集部の限られたマンパワー。雑誌本体の追い込み作業と、その発売日に同時開設する「Webでも考える人」の準備に大わらわでした。とてもイベントまでは、すぐに手が回らないというのが実態でした。

 そこで、以前から信頼を寄せている「ほぼ日刊イトイ新聞」にイベントの協力を打診したのが、2月27日深夜です。すぐにやりとりが始まり、ほどなくTOBICHI担当の山下哲さんからご連絡がありました。早急にご相談を、という申し出でしたが、私の出張予定などもあり、初回の打合せは3月8日午後になりました。

 当日、山下さん、菅野綾子さんのお二人がわざわざ新潮社まで訪ねて来てくれました。まだ、雑誌は未完成です。校正刷りをお見せしながら、どういう雑誌に生まれ変わろうとしているのか、そのご説明をしました。4月の予定はかなり埋まっている様子でしたが、たまたま空いていた4月15日~17日を速攻で予約。具体的な内容の相談は、後日改めてということになりました。

 企画案が送られてきたのは3月22日です。たいていのことには驚かなくなっている昨今ですが、これには虚を衝かれました。その企画書を、山下さんのご許可を得て、一部紹介したいと思います。
 
〈季刊誌『考える人』リニューアル記念企画
おわりとはじまり展

会期:
2016年4月15日(金)~17日(日)
OPEN:11:00~19:00
入場:無料
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『考える人』のリニューアルと、
「ウェブでも考える人」の開設を記念しての催しを
TOBICHI2の1階と2階で開催します。
 

「おわる」と「はじまる」が起きる
この度のリニューアルにおかれましては、
養老孟司先生の連載「ヨーロッパ墓地めぐり」が
わたしたちの中では象徴的だと印象に残りました。
この連載の「最終回」が「リニューアル号」に掲載されるという、
そのブリッジのようなあり方にも(偶然のことなのかもしれませんが)、
意味深いものを感じました。

そこで、まず1階では……
●企画1
「養老孟司さんが巡った ヨーロッパ墓地写真展」

の開催を行いたく思います。
拝見した写真がすばらしく、
これまでの連載から何点かを選んで
1階のちいさなギャラリーに展示をさせていただければ、
独自の催しがひとつ成立すると思いました。
TOBICHI2が青山霊園に隣接した場所ということもあり、
ここならではの雰囲気がうまれるのではないかと。
 


●企画2
「12人の考える人」展

2階は、「はじまり」のゾーンです。
ここはまっすぐに、リニューアル号のことを
アピールする場にしたいです。
具体的には、
リニューアル号に登場される
「12人の考える人」それぞれのコーナーを
12箇所に区切って設営し、
個々にしっかりとしたご紹介をしていきます。
メインは、河野さんに書いていただく12の紹介文です。
(勝手にすみません。たいへんな作業になりますが
 これはぜひお願いしたいと考えています)

「12人の中に、まだ出会ってない人がいるならば、
 どうぞこの場でこの機会に、出会ってください。」
という展示です。
その意味では「考える人」の
ガイドブックのような展示と言えるかもしれません。〉
 
 
 ……実際は微妙に違う内容になっていますが、会場にいらした方にはお分かりのように、この基本コンセプトにのっとって今回の展示は組まれました。私が意表を衝かれたのは、「おわりとはじまり」という切り口と、リニューアル号で連載最終回を迎えた養老さんの「ヨーロッパ墓地めぐり」を、青山墓地との“墓地つながり”でショー・アップする発想です。これは100パーセント、外からの入力によって、私たちの思考が動き始めた典型です。「自分の頭で考える力」を雑誌の理念に掲げてはいるとはいえ、こういう刺激がないと、起動しない脳の領域があることもまた事実です。ありがたい提案でした。

 それにのっとって、私が書いた会場の案内は以下の通りです。1Fと2Fの、それぞれ入口に掲げました。
 
〈本日は、季刊誌「考える人」リニューアル記念企画「おわりとはじまり展」にお越しいただき、どうもありがとうございます。この夏、創刊から15年目を迎えようとする私たちは、ここでもう少し大人になって、たくましく生きてみようと決意しました。世の中はいろいろな事件や変化があいつぎ、情報をいくら集めても集めても、先行きに対する不安は消えません。「考える人」の編集理念は、創刊以来、「シンプルな暮らし、自分の頭で考える力」です。モノも情報も溢れる時代の中で、私たちの基本姿勢はますます重要になってきているのではないか、と感じています。であればこそ、私たちはいま、あえて自分の進路に“節目”をつけることで、次のステージに向かって新たな飛躍を試みなければと考えました。最初にご覧いただくのは、リニューアル号で最終回を迎えた養老孟司さんの連載「ヨーロッパ墓地めぐり」です。人生の終着駅、「死」のシンボルであるお墓をじっと見ることで、「生きている私」「生きていく私」を感じていただければ幸いです〉
 
 
〈1Fで養老孟司さんとともに巡ったお墓の旅はいかがでしたか。「おわりとはじまり」というのは、少し理屈っぽく言えば、「死と再生」です。ここからは「はじまり」のパートです。この夏、15歳を迎えようとする思春期の若者(「考える人」のことです)は、これからどういう人たちと出会っていくのでしょう。たくましい大人になるためには、どういう人たちの存在が必要なのでしょう。そう思って、自ら出会いを求めた12人の魅力的な人たちが、ここには顔を揃えています。老若男女、さまざまなジャンルで個性的な活動をしている方々です。知らないな、と思う人がいるかもしれません。でも、どういう人か、是非ゆっくり対話していただければと思います。「考える人」の記事を手がかりに、12人の人たちがどのように「自分の頭」で考え、どんなふうに生きているのか。このフロアで触れて、その感想をノートに書いてみるのはいかがでしょう。外に出た時、少し元気になった、と感じていただければ幸いです〉
 
 
 このように展示のコンセプトが決まり、徐々に中身がかためられていくのですが、先述した通り、草案を受け取ったのが3月22日。それをもとに2回目の打合せ(山下さんとTOBICHIの大高紗耶さんが来社)をしたのが、リニューアル号発売後の4月7日。オープンの8日前にあたります。来場者にお渡しする「瓦せんべい」(私の好物で、編集部のKのアイデアによって“編集長の顔の焼き印つき”になりました)の計画や、最新号お買い上げの方にお配りする編集長からの「ぎっしりメッセージカード」などが具体化していきました。
 

 2Fのコーナーの作り方は、編集部Kの描いたスケッチをもとに、方向性が定まります。「12人」それぞれに向き合う勉強机のようなしつらえ。「ぼっち席ですね」と言うと、「墓地ですから」と、期待通りに応じてくれる山下さん。残るは、会場内の解説的な文章を書くこと(私の役目です)と、肝心かなめ、1Fの写真展の表現内容です。それを実際に決めたのは4月13日の夕刻です。そこから展示用の写真、テキストのパネルのデザイン、製作が開始され(デザイン担当の星野槙子さんの大活躍です)、搬入はなんと翌日の、つまりオープン前日の午後3時。
 

 冗談半分に、「久々に文化祭のノリだよ」と笑っていたのですが、まさにそうでした。違うのは、この間、「大丈夫だろうか?」と不安になることが一度もなかったことでしょう。「ほぼ日」スタッフであれば、この超スピードでも必ずやってのけるに違いない、という信頼感が確固としてあったのです。

 とはいえ、現実に3日間を体験してみると、いかに無茶なお願いをし、なおかつ期待をはるかに上回る万全の協力をしていただいたか――感謝の言葉もありません。
 

 その上に今回は、「考える人」の“元服”(げんぷく。大人になるための通過儀礼。男子を対象にしていたものですが、江戸時代には女子にも広がったとか)に意味を与えていただいたことが重要です。15歳を迎えた思春期の子どもが、やがて大人になって自立していく。そのための成長のステップを、こういう形で可視化していただきました。その自覚と責任からは、もう逃れられません。

 イベントの最後には、糸井重里さんに入っていただき、創刊編集長である松家仁之さんと私の3人のトーク・イベントが行なわれました。いずれ「ほぼ日刊イトイ新聞」に紹介される予定です。快く登壇して下さったお二人にも感謝しています。
 

 開催直前に、熊本・大分を中心にした大地震が発生し、その様子が気がかりな3日間でした。しかし、「いまは自分たちの持ち場でやるべきことをやるのが大切なのだ」――と、会場に立ちっぱなしの3日間を、そのことが心理面で支えてくれたことも確かです。
 
 
「考える人」編集長 河野通和(こうのみちかず)
写真・「ほぼ日刊イトイ新聞」・「考える人」編集部
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