「絆」という言葉は、東日本大震災後に一気に時代のキーワードになった観があります。家族の絆、などというと、逃れられない「しがらみ」のようでイヤだ、という拒絶反応のほうが強い時期もありましたが、時代環境が変わったのだろうと思います。

 広告業界ではマス四媒体という言い方がありました。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌を指す言葉ですが、いまやここにインターネットが加わったことは言うまでもありません。その中で「雑誌」の特徴を挙げる場合に、しばしば強調されたのが読者との「絆」です。読者が自分の好みに合わせて対象を選び、自分の財布を開いて手に入れる。その率が他の媒体よりも断然高く、そこに集う読者の顔がよく見える、という説明です。

 これは確かに実感するところでもありました。あてはまらない読者もいないわけではありませんが、ほぼ同じ価値観や嗜好を持った人たちが集まる一種のコミュニティとして雑誌空間をとらえることができました。さて、それがいまはどうなっているでしょう?

 正直に言えば、以前に比べて読者との物理的、心理的な距離がだいぶ遠くなりました。インターネットの発達で雑誌の出番が減ったこと、書店の数も減り、読者が書店に行く回数自体、少なくなりました。雑誌と読者の出会いの場が小さくなっているのです。

 「考える人」はこの夏創刊十五年目を迎えます。二〇〇二年七月にplain living & high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)を基本理念に掲げて誕生し、ここからすでに六十冊以上の単行本が生まれています。雑誌が不振だと言われる環境の中では、多くの愛読者に支えられ、安定した推移を示してきました。しかし、上記のような時代の趨勢を免れることはできません。


 そこで、もう一度「考える人」のコミュニティを耕したいと考えます。読者との出会いの場を広げる。筆者の魅力をより強くアピールして、読者の関心を呼び覚ます。コミュニティへの入場料(定価)のハードルを低くする。てんこ盛りにしていた盛り付けを腹七分目くらいの控えめに設定する……。具体的には、新たにウェブ版を立ち上げて、より多くの人が日々「考える人」に接することのできるチャンネルを開く。誌面の中心にインタビュー、対談など、著者の人柄、個性がもっと際立つような記事を置く。定価は一冊九百八十円(税込)とし、一年間の定期購読でも四千円以下に値下げする。総ページはスリム化して、一冊を読み切る達成感を味わってもらう、等々です。

 これを四月四日発売号から実施します。ちなみにこの号の特集は、「12人の、『考える人』たち。」。老若男女、選りすぐった十二人に、各人各様の旬のテーマを語っていただきます。どんな顔ぶれが集まっているか。ウェブ版と併せて、まずはここからコミュニティづくりの新たな一歩を踏み出します。

 

(「波」2016年4月号掲載)