5月、東京の空。

 それは3月のことだった。朝の自室。いつものように目を開ける。頭はきっと目覚めているのに、体が起き上がろうとしていなかった。日付は3月29日、28歳最後の日。すぐに気づいた。兄の年齢を超えることを、全身が拒んでいた。

 拒んでいた、というよりも、戸惑っていたのかもしれない。13歳離れた兄を心の中で見上げる自分は、一瞬にして15歳に戻る。少し前の3月12日、父の誕生日が兄の命日でもあった。穏やかなその人となりを思い返しながら、彼のように出来た人間ではない自分がその年齢を追い越していいのか、この月は毎日のように頭の片隅で問い続けた。そんなときに家族の一人が、こんな言葉をかけてくれた。

「年齢を追い越すのは尊いことだよ。だって兄さんの存在があったから、ここまで生きてこられたんでしょ」

 どんななぐさめの言葉よりも、たった一つの肯定の言葉がほしかったのだと気づいた。

 瑞々しい5月。今度はその兄が誕生日を迎える。彼がいったいなにが好きで、どこをいつも歩いていたのか、もう尋ねることはできない。この文章になんの写真を添えればいいのか迷いながら、当てもなくカメラを向けると、空が笑った。いつでも、笑い返せるように。

気づけば足元にも広がっていた、空の青。