知床半島の付け根に位置し、オホーツク海に向かって開けた北海道斜里町。作家の梨木香歩さんは、この町に暮らす元知床開拓団の一員、門間あや子さん、渋谷匡一さんのお二人と、秋になったら茸狩りに、という約束をなさっていました。異例の暑さが長々とつづき、九月下旬からは気温の激しいアップダウンが繰り返された昨年の秋。十月半ばはいつもなら茸のさかりの季節だけれど九月にはあらかた取り尽くしてしまったと伺ったものの、お二人にぜひ会いたくて、梨木さんは斜里に向かいました。

 海辺のハマナス、川の上のタカ柱、遡上するシロザケ、死骸に群がるオオセグロカモメ……知床のさまざまな動植物が梨木さんを迎えます。そしていよいよ茸狩りに。今回の旅でお世話になった、斜里町の高台にある小島さんのお宅を出発します。

 小島さんの家の裏山は、カラマツの森だ。あや子さんと渋谷さんとの約束は、お昼過ぎからなので、雨が降ったりやんだりを繰り返す午前中、その林に入って皆で茸を探す。白くて小さい茸が群生している。茸というものは、一旦その存在を脳が目から画像として取り入れ、その形状と周りの落ち葉や腐葉土との違いを見分ける精度を上げることができると、とたんに発見しやすくなるものだ。いわゆる「きのこ目になる」のである。
 ――おお、こんなところに、いっぱい。
 きのこ目になった皆の歓声があちこちから聞こえる。その勢いで、カラマツ森を出ると、小島夫妻の先導で、自家菜園の畑の横にある小道を、皆一列になって沢の方へ降りていく。
 小道はシラカバの混じる雑木林を縫い、クレソンの自生する小川に達する。これは、昨夕、エゾシカのカルパッチョといっしょに出てきた生きのいいクレソンだ。途中、茸をいくつか、見つける。毒はあるけどうつくしいベニテングタケも。

 知床の森のひんやりと冷たい空気のなか、梨木さんたち一行と茸を探して歩いているような気分になり、やがて最後には、北の大地へのこの旅が、また異なる意味合いをもってみえてきます。つづきは本誌でぜひごらんください。