バイオミミクリーという言葉をご存じでしょうか。今号では、ノンフィクションライターの最相葉月さんがバイオミミクリーの提唱者ジャニン・ベニュスさんへのインタビューをレポートしてくださいました。
 バイオミミクリーとは、バイオ=生物、ミミック=模倣する、という言葉から名づけられたベニュスさんの造語で、生物のデザインや構造、生態システムに学び、模倣する技術のことをいいます。私たちの身のまわりでは、生体模倣技術(バイオミメティクス)によって、すでにたくさんの製品が開発されています。たとえば、衣類などに使われているマジックテープ。この面ファスナーのおかげで着脱がとても簡単になりましたが、これはオナモミの実の形をヒントにデザインされたものです。その他、新幹線の先頭車両はほとんどしぶきを上げずに水に飛び込むカワセミのくちばしの形を、パンタグラフは静かに飛翔するフクロウの翼の構造を模倣しています。
 ベニュスさんの活動が画期的なのは、こうした産業界の発明をバイオミミクリーと名づけて学問として体系化したこと、そして生物学や博物学と異分野の橋渡しをする媒介者となって、バイオミメティクスや生体工学(バイオニクス)より、さらに環境への負荷が少なく、持続可能な新しい産業構造のかたちを構築しようとしているところです。

「野原や森で過ごして生き物たちの一生をずっと見守っていましたから、早いうちから気づいていたんです。ここには、物語がある――と。(中略)
 生き物はいろんなことを知っているんですよ。航海法、山の頂や海の底で生きる術、化石燃料を使わずに何マイルも泳いだり太陽の光をエネルギーに変換したりする方法、そして、物質の製造方法も……」

 これまで私たちは、自然を開発し、生物を利用することばかり考えてきました。しかし大量消費と使い捨て経済では、もう立ち行かなくなってきています。
 三八億年の進化の歴史を生き延びて、「ずっと昔から、そしてもっとすばらしい方法で、私たちが抱えている問題を解決してきた」生物たちに学ぼうとするバイオミミクリーの思想は、産業界ばかりでなく、人間の心のありようにも及んでいます。
 最相さんが、ロッキー山脈の麓、イエローストーン国立公園の玄関口の一つであるモンタナ州ミズーラにあるバイオミミクリー研究所にベニュスさんを訪ねてお話を伺った、示唆に富んだレポートをお楽しみください。