東京からトルコの西端までをバスを乗り継いでいく『5万4千円でアジア大横断』、いま話題のLCC(格安航空会社)に注目が集まるはるか前に、短距離線主体のLCCを接続して日本に戻ってくることができるか試した『格安エアラインで世界一周』……。旅行作家、下川裕治さんには、新潮文庫で好評の書下ろし紀行シリーズがあります。3回目の旅として、写真家、阿部稔哉さんとの間で浮上してきたのが、ユーラシア大陸を鉄道で横断するという企画でした。しかし、鉄道に少し詳しい人であれば、「簡単じゃないか、シベリア鉄道に乗って、モスクワ経由で行けば、乗り換えずにヨーロッパまで行くことができる」と、鋭いツッコミをしてくるのではないでしょうか。しかし、地図をよく見てください。シベリア鉄道より、サハリンの対岸から出ている細い線、バイカル・アムール鉄道の方が東側に伸びています。そこで飛行機でサハリンへ、船で間宮海峡の対岸に渡り、始発に乗って、中国、中央アジア、トルコを経て、南ヨーロッパにはるばる抜ける列車網に挑戦してもらうことになりました。

 難しい関門が2箇所あります。一つが「中央アジアの北朝鮮」トルクメニスタンとイランの間のサフラス線、ここは貨物専用でしかも数十キロは接続されていません。もうひとつは、ウズベキスタンからカスピ海の北岸まで北上してから南下し、カフカス山脈を越えて、トルコに抜けるルート。こちらはソ連時代は国際列車として稼動していましたが、アルメニアが独立しトルコとの関係が悪化してから停まったままです。しかし、両国の関係が修復すれば復活するかもしれないという希望的観測もありました。今回はこの話に淡い期待を託し、文字通り「見切り発車」、二人の旅はスタートしたのです。ルートが繋がっていないなら、その区間はアルメニアからグルジアへ迂回してトルコに入国してもらうことにしました。ロシア、グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア、トルコとこんがらがった関係にある国々の間の鉄道網を手探りで辿る作戦です。
 二人の前に立ちはだかるのは、なにかと賄賂を要求するロシアの官憲なのでしょうか、それともトルコ入国を許さないアルメニアの出入国管理局員なのでしょうか。いやいや、もっと大変なことが彼らを待ち受けていたのです。「世界で一番揉めている地域」もマイペースで突破するバックパッカー珍道中第三弾、今年秋には文庫オリジナルとして新潮文庫から刊行される予定ですが、そのさわりを阿部さんの旅情を誘うカラー写真とともにお楽しみください。