谷川俊太郎さんは、不思議なひとです。二十歳でデビューし、詩人として第一線にいつづけながら、若い頃はむしろ詩以外の活動で有名でした。そして八十四歳になった現在でも詩作に、講演に、旅にとひっぱりだこでお忙しい毎日。なのにくたびれた印象がありません。いつお目にかかっても、まるで洗い立てのTシャツみたいに、昨日なんて日がなかったようなさっぱりした顔。
 池澤夏樹さんの『詩のなぐさめ』(岩波書店)にこんな一文があります。
 「谷川俊太郎はぼくが詩人になることを邪魔した。たくさんの若い人が詩人になることを邪魔した。だってこんなにうまく書けないもの。これが詩だとしたら自分が書くものは何なのか?」
 逆説的で圧倒的な讃辞。戦後の詩人としてもっとも活躍するスーパースターということに異を唱える者もないでしょう。谷川俊太郎さんの特集は、編集部の念願でした。でも、テレビや雑誌の特集だけでも十指に余る人気の氏に、このうえどんな提案ができるでしょうか。
 『考える人』ではこれまで二度、谷川さんにテーマを決めたインタビューをしています。二〇〇九年秋号特集「活字から、ウェブへの……。」でMacユーザーである理由を明かしていただき、一四年春号の小特集「石井桃子を読む」で子ども、ことば、本についてお話をうかがいました。
 「僕は詩を書くことで、自分の中の子どもを抑圧せずに済んでいる」
 このときの聞き手が尾崎真理子さんで、短時間だったのに核心に触れる濃密なインタビューが実現しました。これがきっかけでその後、谷川さんの人と仕事を描きだす本づくりを見すえて、連続的にお話をうかがえることになりました。
 谷川さんのとおってきた道には、きらきらしい「天才伝説」が無数にあります。十代のお終いにノート三冊に書き付けた詩が第一詩集『二十億光年の孤独』としてロングセラーになり、詩以外でも作詞(アニメ「鉄腕アトム」とか全国の校歌・社歌とか)、映画の脚本(「東京オリンピック」とか)、広告(ネスカフェ「朝のリレー」とか)、翻訳(『マザー・グース』や『ピーナッツ』とか)、舞台・ラジオ・テレビの脚本、さまざまな支援活動……それらを並べるだけで十分おもしろいはずですが、私たちが感嘆したのは、それより、谷川さんの語りの無類の率直さです。
 どんなきわどい問いに対しても谷川さんは言い淀むことがありません。まっすぐに答えることが楽しそうで、対話が深まっていく。ふつうインタビューの名手といえば聞き手ばかりを指すけれど、受ける側の名手もいるものだ、と感じ入りました。
 本号特集では、谷川さんの夏の居場所、北軽井沢にまつわる思い出と、いまの生活についてうかがうことにしました。また、谷川さんと染色家・造形作家の望月通陽さんとの、愉快な対談が実現しました。爽やかな緑陰と、谷川さんの率直な「語り」を、たっぷり味わっていただけると思います。

(「波」2016年7月号掲載)