『考える人』の読者の方々には、ブックガイドの執筆でおなじみの山本貴光さんが、2011年冬号から新連載をスタートしました。
 テーマはずばり、「文体」。ふつう文学における作家固有の文章スタイルや、作品ごとの表現のスタイルをさすことが多いと思いますが、この連載では古代メソポタミアの楔形文字の時代から現代までの、文字(記号もふくむ)やことばや文章でかたちづくられたもののスタイルを、なるべく多岐にわたってとりあげたいとのこと。
「話しことばに書きことば、お役所文書、散文に韻文、問答、占い、叙事詩、アフォリズム、対話篇、随筆、広告惹句、映画の字幕、取扱説明書、……数学の証明、携帯メール、ブログ、歌詞、twitterでのつぶやき――」
 これらに特有の表現スタイルも「文体」としてとりあげ、ながめることで、人間がその営みのなかでつくりだした「ことばの力」を読み味わい、考えようというユニークなもくろみです。

 第1回目のタイトルは「文体とは『配置』である」。
「自分のものではないことばを、自分が発明したわけではない文法と慣例に基づいて並べて、(略)もしここに書き手の個性、その書き手の痕跡が現れるとすれば、畢竟それは語の配置の仕方ということになるだろう」
という従来の文体論にのっとった「配置」ばかりでなく、
「……平面のうえにことばや文章を、どのように置くかという意味での配置、線である文章の連なりを限られた空間のなかにどうしまい込むかという意味での配置」
まで、いわばデザインの領域にわたる「ことばと空間」問題を、十七世紀の初期印刷本からケータイ小説までを例に、山本さんは考えていきます。

 第2回目は「短い文――時間と空間に縛られて」。
 私たちの生物としての諸条件や、環境であるこの世界の構造が、いかなる形で「文体」に反映しているのか? こう説明するとずいぶんむずかしそうですが、サンプルとしてあがるのはコメディ映画「モンティ・パイソン」の1シーン、映画字幕、本の背表紙、数式など意外で面白いものばかり。いにしえの数学者たちが、思考の効率とスピード化のために生み出した「文体」が数式である、というくだりには惚れ惚れします。
 この「短い文」というテーマは、人間の認知や記憶の問題ともからめて、7月発売の『考える人』2011年夏号で引き続き論じられる予定です。

 私たちが思考したり、表現したり、おたがい意思疎通をする重要な道具である「ことば」について、柔軟に、多様な角度から考える手がかりを与えてくれます。ブックガイドの達人ならではの、文体のサンプルの豊富さと意外性、それを料理する手さばきのあざやかさも、読みどころ。ことばの力を磨きたい方にとって、きっと役立つレッスンになると思います。どうぞお楽しみに。