これまで雑誌「新潮」を舞台に何度も対話を重ねてきた作家・小川洋子さんと霊長類学者の山極寿一・京大総長が、こんどは屋久島の森で語り合いました。「考える人」2016年夏号ではスペシャル対談として、森の中でのお二人の語らいを収録しています。

山極さんにとって鹿児島県の屋久島は、若き研究者だった1970年代にニホンザル(ヤクザル)を研究した「第二の故郷」のような場所です。その特別な場所で、どっしりした紀元杉に触れ、沢の水音に耳を傾け、ヤクシカやヤクザルに出会いながら、お二人は物語についての対話を深めていきます。ごく一部をご紹介しましょう。

山極 今西錦司先生は人間を地球規模で見るのか、数百万年の視点で見るか、縮尺が大切だと言いました。僕たち霊長類学者はタイムスケールや空間スケールで縮尺を駆使しながら「人間の物語(ストーリー)」を見ています。一方、それとは違う間尺で、人間の物語を創造しているのが作家という存在なのかな、と思ったんです。

小川 作家が作るのは「架空の物語」です。しかしそれは、読者の生きている場所と断絶した世界ではありません。時空間を測る尺度が現実と異なるだけで、どこかに実在するかもしれない世界なんです。

山極 そう。それは、ジャングルの中でゴリラを追っている僕の感覚と似てるんですよ。

小川 えっ?

山極 ゴリラとわれわれは同じ時間を生きているわけですよね。でも、人間はゴリラの世界に入ったことがなかった。ゴリラも人間のことは知らなかった……。ゴリラの世界を知ることは、小説を読んだ後の感触とすごく似ているんです。

 

このお二人の対話でなければ出てこない言葉ばかりです。ガジュマルの根元に腰を降ろして聞くような気分で、読んでみてください。