梅棹忠夫は90年の生涯を通じて膨大な仕事をし、なかでも著作は240冊に及びます(著作集22冊を含む)。いずれもが、不思議なくらい平明な言葉遣いで書かれており、この学究者にして探検家であった人物のへだてのない人となりをよく伝えています。
 3名の方々に、梅棹さんの本でもっともお好きなものを選んでいただきました。

(1)野村進さんが読まれたのは『日本探検』。京大も文化人類学も東南アジアも探検部も、アレルギーを起こすほどイヤ、という野村さんは当然、梅棹を敬遠してきました。「ところが、遅ればせながら三十代の末に読んだ『文明の生態史観』で、かなり見方が変わった。月並みな言い方になるが、“目からうろこが落ちる”とはこのことかと思った」と印象を変え、このたび『日本探検』を読んで「あっ、こりゃ天才だわ」と思わず口走ったとのこと。梅棹のどんな表現が、野村さんにここまで言わせたのか。『日本探検』、必読の一冊です。
(2)関川夏央さんは若い日に、梅棹の「日本はアジアではない」「アジアという実体は存在しない」という言葉と考え方に励まされ、また梅棹が江戸期に成熟をみた封建制こそ「日本文明」の母である、と評価したことに深く同意しています。この巨人の仕事をならしめたものは『裏がえしの自伝』『行為と妄想』を読めばしみじみとわかる、と2冊の自伝を薦めてくださいました。
(3)80年代に京都で学生生活を送り、梅棹忠夫を文化的アイコンとして育った佐久間文子さんは、『夜はまだあけぬか』でその失明を知って、衝撃を受けたといいます。しかし、それにもまして、「非常に感銘を受け」て、本書をレビューしてくださいました。
「新しい体験をすることは、梅棹の人生の駆動力となってきた。病をえてもその意欲は衰えない」「先の見えない毎日を送るために、よいこと、希望のもてることを梅棹は探す」と、本書にちりばめられた愉快なエピソードを挙げています。自他共に認める「よい目」をもった梅棹忠夫の、精神の光を伝えるブックレビューです。

 ブックナビゲーターの山本貴光さんは、梅棹を「稀なことではあるけれど、書いたものの全体が、本当に一個の宇宙のようだと感じさせられる書き手」と評しています。「画家は、デッサンを繰り返しながら、やがて着手する絵画の手応えを探る。……梅棹さんの仕事全体は、この世界、あるいはこの地球を写そうとした一個のマンダラだったのではないか」。たとえ作者が去ったのちも、マンダラはいつでも読み、写し、手を加え、リンクし、全体を豊かにしていくことが出来るのだ、と。生態学、探検、文明、情報、言語にまたがる梅棹の広範な仕事の中から、必読の10冊をガイドしていただきました。

 没後1年、梅棹忠夫の著作は、さまざまな読み手に恵まれてあらたな輝きを放っています。『考える人』のブックレビュー&ブックガイドをご参考に、ぜひ書店で、お手にとることをお勧めいたします。