2011年3月11日に発生した大地震と大津波によって、多くの尊い命が奪われ、また、被害を受けられた方たちの生活復旧への目途は依然として立っているとはいえません。私たちは、この自然の猛威を前にして、なす術のない人間の無力さに打ちひしがれ、呆然とするばかりでした。しかし、さまざまな形で支援の手が差し伸べられるなか、被害を受けられた東北の人たちの強さに、かえって私たちが勇気づけられもしました。今最も必要とされていることは何なのか、自分には何ができるのかという問題だけでなく、みずからの人生観や価値観を揺さぶられ、それについて改めて深く考えるようになった方も多いのではないでしょうか。
 また、東北の人たちの我慢強さや、互いを思いやるやさしさを知り、東北という地域について改めて考えるようになりました。東北というと、まず、黄金色に波打つ稲穂、たわわに実るリンゴやさくらんぼ、そしてマグロや秋刀魚といった海の幸などが思い浮かびます。そして次に浮かぶのが冬の厳しさです。
 厳しい自然だからこそ、豊かな恵みがもたらされもするわけですが、その試練は並大抵のことではないでしょう。しかし、東北に暮す人たちは、雪深さによって閉ざされざるをえない地域ごとに独自の民俗文化を育んできました。それは自然によりそった文化ともいえるでしょう。優しく朴訥に死者の言葉を語るイタコの口寄せ、夭折者の冥途婚、哀しみをユーモアと温かさで次世代に伝える民話の数々……。それらは、苦境を乗り越え、希望を繋ぐために営まれてきた東北独自の文化です。
 自然との相克のなかで独自の文化を育んだ東北の力の秘密を探るために、「東北巡礼」の旅を始めます。第一回は、青森県弘前市久渡寺の「大白羅講大祭」です。