米大統領選挙では、「真実」を語る言葉は、拡散される「虚偽」の前に屈し、イギリスのEU離脱問題では、理を尽くした残留派の説明は、感情で語る離脱派の影響力に及ばなかった。

 では、言葉は無力か? そうではない、だろう。言葉によってもたらされた混乱は必ず言葉が修復するはず――。そう信じて取り組んだのが冬号の特集「ことばの危機、ことばの未来」です。様々な角度から「ことば」の力とおもしろさを探りました。

 特集の巻頭を飾るのは、作家・池澤夏樹さんのロングインタビュー「ことばは変わるからこそおもしろい」。池澤夏樹さんはここ数年、『池澤夏樹=個人編集 世界文学全集』『同 日本文学全集』を通して、世界と日本の文学全体を見渡す仕事をなさっています。中でも、オリジナルアンソロジー『日本語のために』(『日本文学全集』第30巻)は、文学全集としては異例の重版がかかりました。祝詞(のりと)に始まり、古文・漢文はもちろん、アイヌ語、琉球語、仏典の現代語訳や日本国憲法前文など、意表を突く”日本語サンプル集”のようなこの本にどのような想いをこめたのか。そして、池澤さんが見た、ことばの過去・現在、そして未来とは。

撮影・菅野健児

 この他、スペシャルエッセイでは、詩人の工藤直子さんが二年半にわたって続けた心理学者・河合隼雄さんへの聞き書きを思い起こしながら、河合さんが残してくれた大切な言葉の数々を紹介。辞典編纂者の飯間浩明さんは、「ことばの誤用」を取り締まる「日本語警察」の危うさを指摘。ジャーナリストの会田弘継さんは、言葉の面から「トランプ現象」を鋭く分析してくださいました。

 「響くことば、届かないことば」と題したコーナーでは、小島慶子さん、片桐はいりさん、都築響一さん、有森裕子さん、岸政彦さん、武田砂鉄さん、最果タヒさんら各界で活躍する12人が、救われた言葉、大切にしている言葉、従いたくない言葉とその理由、などなどそれぞれに「ふむふむ、なるほど」と思うエッセイを寄せてくださっています。

 「使ってみたいこのことば」では、「ことば巧者」の朝倉かすみさん、竹内政明さん、能町みね子さん、山田航さんが、いつか使ってやろうと心に期す「とっておきの表現」を惜しげも無く披露してくれています。

 「ことばを届ける仕事」では、スモールプレスとも呼ばれる小規模な出版社を営む村井光男さん(ナナロク社)と上野勇治さん(港の人)のお二人が、出版の醍醐味を熱い言葉で語り、和歌山の小さな村で本屋を営む井原万見子さん(イハラ・ハートショップ)が、田舎だからこそ消してはいけない本屋の灯を守る心意気を静かに、でも力強く語ってくれました。

 世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏も、人類と言葉という観点からインタビューに応じてくれました。

 盛りだくさんな冬号特集、ぜひ読んでください。