未曾有の震災から1年たったこの春、「考える人」は総力をあげて東北特集を組むことにしました。

 池澤夏樹さんは、震災直後の昨年4月から何度も東北の沿岸部を訪れ、自問自答を繰り返してきました。そして昨年11月。地震と津波のことだけでなくもっと広い意味で東北という土地のことを考えてみようと、青森県の三沢空港に再び降り立ちます。
「2011年3月11日は我々が持っていたものの考えかたを大きく変えた。生きかたまで変わったかもしれない。」
 ずっと頭から離れない東北を、青森から宮城まで、海岸線沿いに南下する旅。この旅を軸にして、東北についての様々な考察や思いを綴ったのが、今回の特集の柱となるエッセイ「東北の土地の精霊」です。

 このエッセイの鍵となるのは数々の地名です。八戸、鮫、小子内、久慈、羅賀、田の浜、遠野、多賀城……。実に多くの地名が登場します。この地方の歴史をはじめ、『おくのほそ道』や『遠野物語』といった文学作品を引き合いに出しながら、また宮澤賢治や柳田国男らの旅した地を訪ねながら、池澤さんは古来の歌枕や地名の由来について丁寧に考察を重ねます。いわば、東北の地名を辿る旅です。その理由は、文中でこう説明されています。
「ずっと地名を気にしているのは、歌枕と言えばわかるとおり、地名には霊が宿っているからだ。……それを唱えるだけで神々は喜ばれるだろう。」
 行く先々の土地の神を訪ね、亡くなった多くの人々の魂を鎮める儀式を行う……。池澤さんにとって、この旅は土地に生きる死者たちの魂と向き合う旅でもありました。

「人はどこまで他人の境遇に沿うことができるか。」いわば部外者として東北の奥底に触れようとする池澤さんは、旅のあいだ、絶えずこの問いを自らに投げかけます。震災が起きたからと言って、「東北の歴史などを云々するのは底の浅い被害者論でしかない、と考えることもできる」とも。こうした思いは誰もが少なからず抱くものでしょう。しかし池澤さんはエッセイの最後に、この問いに対してひとつの答えを提示しています。そこには私たちの考えかた、生きかたを再考するヒントがあると同時に、勇気づけてもくれる力が秘められているように思います。

 文中にはさまれるのは写真家・鷲尾和彦さんによる、震災後の東北の海岸線の写真です。静かな力強さをたたえた写真も、ぜひ本誌でごらんください。