東北地方、とひとことでいっても、この地に息づく文化は決してひと括りにして語れるものではありません。冬の雪深さ、入り組んだ海岸線、そして南北に走る山脈によって集落ごとに分かたれたこの地には、地域ごとに育まれた独自で多様な暮らしが息づいています。
今回の特集では、東北に縁の深い9人の方に、「言葉」「本」「暮らし」「美人」「小川」「土」「信仰」「工芸」「海」の9つのキーワードをテーマに、東北を読み解くコラムを寄せていただきました。いくつかをご紹介します。

「ばがくせ」―言葉― 三浦雅士

評論家の三浦さんは青森県弘前生まれ。郷里の大先輩である小説家 長部日出雄が弘前で行った30年ほど前の講演の記憶を引いて、津軽弁の「ばがくせ」という言葉について書いてくださいました。
「『ばがくせ』というのは『馬鹿くさい』つまり『馬鹿らしい』という意味ではない。関西弁にいう『アホらし』とはもっと違う。そんな軽いものではない。津軽弁にいう『ばがくせ』とは『不条理だ』という意味なのである。」
冷夏や台風、過酷な暮らしから搾り出されるように発せられる「ばがくせ」の響きが、耳の底にいつまでも残るようなエッセイです。

「北国が生んだ引き算の美」―工芸― 宮伸穂

南部鉄器の職人の宮伸穂さん。小さな頃から工房で働く親や職人たちの姿を見て育った宮さんは、金沢で過ごした学生時代に、自分のなかにある東北的なものを意識するようになったといいます。金沢の文化は、九谷焼や加賀友禅のように足したり掛けたりして作る重層的で豪華絢爛なもの。一方宮さんは、新しい着想を得てから商品化するまでに、四~五年を掛けて少しずつ雑駁なものを削ぎ落としていく。「『引き算』が私のやり方です。これは厳しく長い冬を過ごす、北国の気質なのでしょう。」

「土偶が物語る東北の美意識」―美人― 高橋大輔

「美人論とは結局、お国自慢のようなものだ。美人を褒め称えているようで、じつはそれを生み出した風土や文化の豊かさを謳歌している。」秋田出身の探検家、高橋さんは、独自の「東北美人論」を展開します。「わたしは東北の歴史を遡っていくうち、縄文時代の土偶に行き着いた。目を奪われたのは山形県の西ノ前遺跡で発見された土偶だ。――バランスのとれた八頭身のプロポーションが艶めかしいほどの異彩を放っている。」本誌ではその土偶の写真とともに、東北美人土偶論が展開されています。

そのほか、山形県出身の文芸評論家、加藤典洋さんの「小川」がテーマのエッセイや、恐山の住職代理を務める南直哉さんによる「死の近さ」、気仙沼で牡蠣の養殖業を営む畠山重篤さんの「未来へとつながる道」など。東北の多様さを読み解く9本のエッセイ。どうぞ本誌を手にとって、じっくりとお楽しみください。