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こんにちは。「Webでも考える人」新編集長の松村正樹です。
先週にひきつづき、自己紹介もかねて、日記を掲載したいと思います。46歳、入社24年目、妻と娘あり。文芸誌「新潮」副編集長と兼務で、「Webでも考える人」編集長につきました。

4月10日(月)
 紀伊國屋書店新宿本店にて、松浦寿輝さんと堀江敏幸さんの公開対談イベント。満員御礼。日中戦争さなかの上海を舞台にした、べらぼうに面白い松浦さんの最新長編小説『名誉と恍惚』をめぐって。読みはじめたらやめられないほどミステリー的な要素の強い小説でありながら、『明治の表象空間』と対をなす国家論の試みでもある。明治に成立した国家が昭和にどんな末路をたどったかを、権力の末端にいる人間の目から書いている。
 堀江さんの読みの深さと細やかさに圧倒された一時間だった。「『明治の表象空間』を小説のように、『名誉と恍惚』を評論のように読んだ。」「『名誉と恍惚』の道具立ては、『巴』に少し似ているが、一番違う部分が主人公が警察官であることだ。『明治の表象空間』が警察の話からはじまっていることに対応している。」「小説の中に、ブニュエルの映画『アンダルシアの犬』で女性が剃刀で眼球を真っ二つにされる場面についての言及があるが、全体を通して、目に関する印象的な描写が多い。」などなど。

4月11日(火)
「考える人」最終号で「人工知能」についての授業をしていただいた、国立情報学研究所社会共有知研究センター長で数学者の新井紀子氏の昨日のツイートを読んだ。

内閣府の会議では「シンギュラリティが来て、人手不足もエネルギー問題も食料問題も解決できる」と主張した委員がいた。「それは土星に生命がいるかも、というのとあまり変わらない。そういう前提で議論をすべきでない」と注意はしたけど。

 そんな大雑把なことを言う識者がいるとは! シンギュラリティとはAIが人間の知能を凌駕する時点のこと。30年後だとも言われる。世界のすべての問題をAIが解決してくれるまで、30年間は特に対策は必要ないとでも言うのだろうか。すべてをAIの発展にかけるのは根拠のない楽観論だ。
 表参道・山陽堂書店でやっていただいたイベント「また会う日まで『考える人』、これからもよろしく『Webでも考える人』」が終了。来ていただいたみなさま、本当にありがとうございました。

4月12日(水)
Webでも考える人」編集部の二週間に一度の定例会議。4月から現編集部は、文章が上手で英語が抜群にできるKさん、昨春の「Webでも考える人」オープン以来雑誌と並行してサイト運営してきたSさん、「ROLA」編集部から移ってきた叩き上げのデザイナーSさん、と私の4名。私以外は女性(兼任している「新潮」編集部の編集者5名は4月から全員男性になった)。この4名のメンバーが社内のさまざまな部署の編集者の協力を得て、日夜サイトを更新している。みんな仕事が早くて気持ちいい。私の聞き慣れぬウェブの言葉も飛び交う。当然知っているふりをしながら、後で密かに調べる。

4月13日(木)
Webでも考える人」メールマガジン配信の日。自分の日記がどんな感じで配信されるかどきどきしながら待つが、なかなか配信されない。午後になっても配信されないので、心配になってよくよく確認してみると、なんと迷惑メールに振り分けられていた。がーん。まさか執筆者が河野さんから私に代わったからじゃなかろうな?

4月15日(土)
 池澤夏樹さんの『キトラ・ボックス』読み終わる。『アトミック・ボックス』につづき、エンターテインメント的な手法を意識した小説。飛鳥時代のキトラ古墳は、被葬者が確定できてないらしい。そこから、7世紀のウイグル、中国、日本にまたがる考古学の謎をめぐって話が展開するのだが、手つきが洗練されていて美しい。過去と現代の二層に渡って膨大な資料が使われているだろうに、あくまで読みやすくてスマート。『日本文学全集』を編集し、毎巻の解説を書きながら、そしてまた「考える人」で「科学する心」を連載しながら、同時にこういう小説も書く池澤さんの仕事の多面性に改めて驚く(ちなみに、『キトラ・ボックス』とほぼ同時の3月末に、新潮選書から『世界文学を読みほどく:スタンダールからピンチョンまで』の増補新版も出ている)。
 「考える人」最終号にいただいた池澤さんのコメント「……この雑誌は反知性主義との戦いの橋頭堡だった。それを失ってこの先はゲリラ戦かもしれないが、考える姿勢は変わらない。」を胸に刻み付ける。

 

松村正樹

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