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こんにちは。「Webでも考える人」新編集長の松村正樹です。
先週にひきつづき、自己紹介もかねて、日記を掲載したいと思います。46歳、入社24年目、妻と娘あり、埼玉県在住。文芸誌「新潮」副編集長と兼務で、「Webでも考える人」編集長につきました。

4月17日(月)
Webでも考える人」で小松貴さんの「『裏山の奇人』徘徊の記」の担当をしてくれている、出版部の虫くん(仮名)が編集部に遊びに来る。とても熱く楽しそうに、昆虫の魅力を語ってくれる。自身も小中学時代は昆虫博士になりたかったんだとか。虫くんは、18年くらい前に週刊誌で隣の席だった。ほぼ毎日話をしていたのに、当時は、虫の話を聞いた覚えがまるでない。週刊誌記者時代は隠していたのだろうか……。虫くん、楽しそうで何より、好きなことが仕事になってよかったな!

4月18日(火)
 多和田葉子さんと堀江敏幸さんの対談を新潮社近くの「新潮社クラブ」にておこなう(「新潮」掲載予定)。ベルリンを舞台に「カント通り」「カール・マルクス通り」といった実在の10の街路を舞台にした、多和田さんの連作長篇小説『百年の散歩』をめぐって。二人は見ているものが同じなのだな、とつくづく感じる対談だった。考えてみれば、堀江さんの近著『その姿の消し方』も多和田さんの『百年の散歩』もナチスの記憶がちらつく。
 多和田さんは一度も担当になったことがないのだが、大学時代に図書館で群像新人賞受賞作「かかとを失くして」を読んでから、ずっとファンである。編集者になってから読んだ作家に会うときはそれほど緊張しないのに、学生時代から読んできた作家に会うと、いまだに緊張する。

4月19日(水)
 前編集長の河野通和さんが「ほぼ日」で働くことを知ってビックリ。webの世界がますます面白くなりそうだ。

 新潮社近くの la kagu2Fにて翻訳家の柴田元幸さんと藤井光さんの対談「2017年のポール・オースター」。相次いで翻訳が刊行された、肉体の感覚にこだわった回想録『冬の日誌』、精神にこだわった回想録『内面からの報告書』、対になる二冊について。藤井さんは卒業論文のテーマがオースターだったらしく、鋭い質問を柴田さんに投げかける。柴田さんの、「オースターと村上春樹さんは、1ページ目から読み手を掴む筆力が圧倒的だ」という言葉が心に残る。今年1月にアメリカで刊行されたオースターの7年ぶりの新作『4321』は、村上春樹さんの『騎士団長殺し』に重なるような総決算的な大作らしい。会場に、『4321』を、もう原著で読んでるお客さんがいた。
翌日の藤井光さんのツイート

「……読み手が作品世界にすっと入り込めて、迷子になることに喜びがある、稀有な作家だと改めて思います。」

なんて素敵なオースター評だろう。

4月21日(金)
 哲学者・國分功一郎さんの『中動態の世界 意志と責任の考古学』を読む。思いもしなかった扉を開けてくれる本。「アルコール依存症、薬物依存症は本人の意志や、やる気ではどうにもできない病気なんだってことが日本では理解されてないからね」「しゃべっている言葉が違うのよね」とある依存症患者がもらした言葉から、國分さんは、かつてギリシア世界には、能動態と受動態だけでなく、中動態という概念があったことに注目する。当時、「能動態」と対立していたのは、「受動態」ではなく、強制ではないが自発的でもなく、同意しているという状態を指し示す「中動態」であった。國分さんは、ここから様々な哲学者に導かれて、意志という概念のない、かつての世界を議論する。とっつきにくそうな話かと思ったが、想像していた以上に面白かった。現在失われてしまった感覚をまるで疑似体験しているように感じる。そして、『暇と退屈の倫理学』のときにも感じた、國分さんの話の進め方のうまさに唸る。

4月23日(日)
 近所の蕎麦屋で「ふきのとうの天ぷらとざるそば」。年々、苦いものがうまく感じる。山菜、鮎、うなぎの肝、ゴーヤー。みな大好きだ。ビールやコーヒーを苦くてまずいと感じた20代前半がなつかしい。46歳でこのくらい苦いものが好きだと、50代、60代はどういう味覚になるのか楽しみである。ふきのとうが出回らない季節は、ふきのとう味噌やふきのとうの佃煮を温かいご飯に載せて代用にしている。
 明日から「新潮」の校了日。慌ただしくなるだろう。

来週のメールマガジンはお休みいたします。次回の配信は、5月11日(木)です。

 

松村正樹

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