大きな声を出して笑ったあとには、なんとも言いようのない爽快感があります。行き詰った関係も、クスっと笑える出来事が起こった途端に、かろやかに動きだしたりします。その一方で、愛想笑いや苦笑い、ごまかし笑いなど、笑いにはネガティブな側面もあります。しかしこういう笑いは、急場を乗り切るためにとても有効だったりもします。
生きもののなかで笑うのは人間だけ? 「笑うこと」が心やからだにもたらす影響は……? 今回の特集では、「笑い」の奥深さを読み解くエッセイを、8人の筆者に寄せていただきました。

「『代弁』からの脱却」 サンキュータツオ

漫才コンビ「米粒写経」のメンバーであると同時に、日本語学文体論の研究者でもあるサンキュータツオさん。笑いと言語両方のプロの立場から、“ツッコミ”の革新について分析してくださいました。
「従来のツッコミというのは、『ボケ』を効果的に明示し、お客さんの心を代弁する役割があるという説明がされてきたと、サンキューさんは言います。「『ボケ1に対してツッコミ1』をワンセットとして捉え、ひとつの笑いをより確実なものにしようというわけである」。
しかしサンキューさんの分析によると、この「従来型ツッコミ」はゼロ年代に大きな変革を遂げました。ナイツやアンガールズ、南海キャンディーズの掛け合いを例示し「このツッコミのイノベーションは歴史上類型がないほど劇的に、そして急速に起こったといえる」状況を、具体的かつ明晰に分析します。

「先頭に立つもの」 いしかわじゅん

漫画家のいしかわじゅんさんのエッセイは、「赤塚不二夫の先は、もうないと思っていた。」という印象的な書き出しから始まります。「もうこれ以上のものはない。ギャグはここが突き当たりだ。と当時は本気でそう思った。」
しかしその先にも、漫画の地平は広がっていました。山上たつひこの連載『喜劇新思想大系』。鴨川つばめ、江口寿史。表現は、先頭に立ったと思った時にはもう古びている。――その過酷さを楽しむ実作者で、批評家でもあるいしかわさんの、ギャグ漫画表現論です。

「笑気袋の中身、一部公開」 三浦しをん

「日常にあふれる笑いの大半は、当人が意図しないところから生まれてくる。そしてその大半が、一瞬だけ場をなごませて、記憶の彼方に消えていってしまう」。朧気な気配となって心に残る日常の笑いについて、くすりと笑えるエッセイです。

そのほか、「動物も笑うのか」という問いに正面から答えてくださった霊長類研究者の山極寿一さん、映画の笑いについて語る山本貴光さん、さらにハービー・山口さん、高野秀行さん、西加奈子さん。計8本のエッセイ、読み応えある内容です。

さらに、アンケート企画「『笑いの本』マイ・ベスト3」では、思わず噴き出す小説から、じんわりおかしい漫画や写真集、さらには笑いを考察した研究書まで、とっておきの本を挙げていただきました。アンケートの回答者は、以下の38名です。
池内紀、池谷裕二、池田清彦、いしいしんじ、入江敦彦、大宮エリー、恩田陸、角田光代、鹿島茂、春日武彦、岸本佐知子、木田元、國分功一郎、最相葉月、斎藤環、さげさかのりこ、佐々木幹郎、辛酸なめ子、祖父江慎、立川昭二、田中真知、田丸公美子、津村記久子、豊崎由美、中納良恵、中野京子、西江雅之、原田マハ、パルト小石、平松洋子、マイケル・エメリック、宮沢章夫、宮下志朗、茂木大輔、矢内賢二、山田太一、山本貴光、結城昌子(敬称略)

最近お腹を抱えて笑っていないな……と思ったら、本誌を是非手にとって見てください。笑いは万病の薬、です。