特集の巻頭では、歩くことが表現に大きくつながっている、注目のノンフィクション作家に登場していただきました。
『バーボン・ストリート』『テロルの決算』『深夜特急』『一瞬の夏』『檀』『凍』……。1970年のデビュー以来、つねに方法論を模索しながらノンフィクションに新しい地平を切り開いてきた沢木耕太郎さん。
 一方の角幡唯介さんは、新聞記者を経て探検家となり、30代半ばで著作を上梓した異色の経歴の持ち主です。鮮烈なデビューを飾った『空白の五マイル』で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞、『雪男は向こうからやって来た』では新田次郎文学賞を受賞されました。
 沢木さんと角幡さんという胸躍るような対談が実現しました。おふたりはこの日が初対面でしたが、ノンフィクション論をめぐって話は尽きません。

 沢木さんは人称をめぐる興味深い試みについて語ってくださいました。
「(『凍』の)十年ぐらい前に、『檀』を書きました。そのときの僕の主要なテーマは、「深さ」なんです。関心の多くは人間の内面に向かっていました。人間の内面をノンフィクションでどこまで深く書けるだろうか、というところで『檀』を書き、そして今度は、三人称で一人称の深みを書けないかと『凍』に向かっていきました。」

 角幡さんは昨年の北極探検を最新刊『アグルーカの行方』にまとめたことで、探検観にひとつの変化があらわれたようです。
「次は冬の北極に行きたいと思っています。極夜だから太陽もないし、磁極が近いのでコンパスも効かない、何も見えない。……そんなところに行ったって、何か書けることがあるのか自分でも疑問です。でも行きたい。……たぶんそこには人間が生きることのできる極限の世界がある。それを単純に見てみたい。」

 今回は沢木さんのご提案で、対談に先立って自作以外のノンフィクション作品を、お互いに3冊ずつ選んでいます。「ベスト3」ではなくて、「語りたい3冊」なところが、沢木さんならではのお題です。世代もスタイルも違うおふたりが、それぞれの視点で読み解き、ときには真っ向から意見を闘わせることも。対談の後半はすぐれたブックガイドにもなっています。

 歩いて考えることが執筆の原動力となっている、ふたりの作家の刺激的な対話を、どうぞお楽しみください。

ブックリスト

[沢木さんが選んだ3冊+1]
ドミニク・ラピエール、ラリー・コリンズ『さもなくば喪服を』早川書房
本多勝一『極限の民族 本多勝一集9』朝日新聞社
開高健『ベトナム戦記』朝日文庫
開高健『輝ける闇』新潮文庫

[角幡さんが選んだ3冊]
アプスレイ・チェリー=ガラード『世界最悪の旅 スコット南極探検隊』中公文庫
J. シンプソン『死のクレバス アンデス氷壁の遭難』岩波現代文庫
マーク・ローランズ『哲学者とオオカミ 愛・死・幸福についてのレッスン』白水社