梨木香歩さんの作品は小説であるとエッセイであるとを問わず、いつも移動する身体と精神の存在を感じさせます。生の根源へと向かう『水辺にて』。旅の体験の結晶した『春になったら莓を摘みに』。異界との境界を行き来する『裏庭』『からくりからくさ』『家守綺譚』『沼地のある森を抜けて』。そして今秋に刊行された『エストニア紀行』まで。空間や時間、意識の境目をも移動しながらつむぎだされていく作品は、読んでいるわたしたちをどこかに誘います。
梨木さんは、これらの着想をどのように得て、何を描こうとしたのか。梨木作品に魅了され、読み込んだ湯川豊さんが、丁寧に聞き出していきます。

湯川 ……「移動」は実際の旅に結びつくこともあるし、何かを探求する精神、視線が一所にとどまることなく生き生きと動いていく、移っていくという意味をも内包します。
 梨木さんが、そうした移動のなかで実に多くのことを発見していくのが、読者にとってはたいへん新鮮でスリリングでさえある。たとえていうと、ひとつの思想、ひとつの感覚がどこかに眠っているとして、梨木さんの移動にしたがってそれらが目覚めていくような印象をもつ文章を読むことができる。
 ……梨木さんにとって、旅というもの、移動し、発見していくということが、どういうふうに位置しているのか。

梨木 改めて考えると、ものごころついてからずっと、道というものに興味がありました。だれにも言わない自分一人の遊びとして、「冒険の旅」というのがあって。
 ……自分の中で世界はどうなっているのかを把握したいんでしょう。ある種の水平の移動だけではなくて、深さに対する希求みたいなものがあって。それが自分にとってはほんとうに生命線のように大事なものであるからこそ、ほかの人にそれを知られてはならない、みたいなところがありました。

移動や旅にまつわる好きでたまらない本、作品の生み出されたきっかけ、「異界」や「境界」、「個」と「群れ」、「足跡」と「案内するもの」など梨木作品のなかで重要なモチーフやテーマとなることについても、作品に即して掘り起こされていきます。
作家・梨木香歩が物語の源泉を語りつくした、初めてのロングインタビュー。つづきはどうぞ本誌でご覧ください。