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文芸誌「新潮」副編集長と兼務で、「Webでも考える人」編集長につきました。46歳、入社25年目。以下は、そんな私の編集長成長日記です。


5月8日(月)
民俗学者・赤坂憲雄氏と古代文学者・三浦佑之氏の対談集『列島語り――出雲・遠野・風土記』を読む。古代日本の周縁をめぐる対話だが、異様に中味が濃い。「はじめに」や「おわりに」を読むと、1997年から計五回の対談をおこない、完成度を高めるため、対談まとめにお互い徹底的に朱を入れあい、結果、原型がなくなってしまったとのこと。
「むしろ対談という形式をもって共同制作された三浦佑之=赤坂憲雄という署名入りの本なのかもしれません。」
「書斎に籠もり、机に資料を並べて論文や本を執筆するのとは、まるで異なった思考の広がりと深まりがありました。」
ほとんど後から手を入れない対談も臨場感があって好きだが、こういう対談集は、シチューを時間かけてことこと煮込んだような味の深みがある。

5月9日(火)
編集部のKさんの発案を、デザイナーのSさんが形にする。それについて、みんなの意見を聞かせてほしいと緊急会議(っていうほどでもないか)。作業机に編集部四人が集まる。ウェブマガジンならではの工夫、四人おのおのの役割がはっきりしている部署ならではのフットワークの良さを感じた。

5月10日(水)
兼任している「新潮」編集部の歓送迎会のために築地の「うまいもん屋」に行く。今回、4月1日付で「新潮」編集部は庶務と編集者一人ずつが異動となった。合計4名の歓送迎会で計8名参加。人数多いので、はじめて「調整さん」を使ってスケジュールを決めた。
「うまいもん屋」、料理4000円のコースで、とにかく品数多い。亀の手、セロリの炒めもの、レンコンのきんぴら、ツルムラサキのお浸し、刺身の盛り合わせ、伊勢海老刺し、鰆の焼き物、ホタルイカの刺身、鮪のづけ焼、スルメイカの一夜干し、ホタテ焼、野菜焼、ゴーヤーチャンプルー、焼きおにぎり、伊勢海老の味噌汁、スイカなどなど。魚の新鮮さはもちろん、野菜も甘くてかなりおいしい。亀の手をはじめて食べた。

新潮社には、本館と横断歩道を渡って別館がある。「新潮」編集部は別館にあって、異動する人が本館の部署に行くと急に見かける回数が減るのだが、今年はそれほど寂しく感じない。それは僕も本館に「Webでも考える人」編集部の席があるからだ。異動したHさんもNさんも本館でよく見かける。Nさんには「よっ! 編集長」と廊下で囃し立てられる(からかわれてる?)。会社という場において物理的な距離はしばしば心理的な距離感に比例するのだなあ。

5月11日(木)
又吉直樹さんの『劇場』単行本発売日。
新潮」6月号に又吉直樹さんと古井由吉さんの新しい対談を載せている。冒頭部分はネットで公開している

又吉 僕は一作書いて、ああ、小説ってこういう感じで書くんだってわかったつもりでした。自分で思ってないような展開になっていくものを感じたりして……でも、二作目に取り組んでみると、一作目とは全然違う。わかってなかったんですね。
古井 前の作品で悟ったつもりだったのに、いざ次の作品に移ると、さしあたって何の役にも立たない(笑)。だから、暗闇の中の手さぐりですよね。

80歳になる古井さんが今でもそうやって小説を書いているのだ、と茫然となる。また、古井さんは『火花』を、「本当言うと、そんなにスラスラと読める小説ではないですねえ。」と語る。
この対談のとき、古井さんはまだ『劇場』を読んでいない。古井さんはいつ『劇場』を読むだろうか。今作もまたゆっくり読むのだろうか。

5月13日(土)
アマゾンプライムビデオに最近追加された映画「その夜の侍」(赤堀雅秋監督、2012)と「ディストラクション・ベイビーズ」(真利子哲也監督、2016)を立て続けに見る。しまった。ともに暴力と呪詛に満ちた傑作だが、一日にセットで見るタイプのものではなかった。あまりのエグさに家の外に出るのが怖い……。

 

松村正樹

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