海辺を一列に歩く人たちを写した、ちょっと不思議な風景。今号の表紙を飾るのはイギリスのウォーキング・アーティスト、ハミッシュ・フルトンの作品。管啓次郎さんがエッセイに取り上げてくださったことから、編集部もデザイナーも、フルトンの“歩行”に魅了されました。

 表紙のインスタレーションは最近の代表作で、ヨーロッパ各地で実施されたもののひとつです。フルトンは総合演出を手がけつつ、もちろん一緒に歩きます。どうやってこのインスタレーションが出来上がるのか。先頭に立ち指揮を執る彼の姿を、公開されているメイキング・レポートでご覧ください。
 (http://www.turnercontemporary.org/exhibitions/hamish-fulton-kent-walk-series

 フルトンは40年以上も、歩行という身体経験とまっすぐに向き合ってきました。彼の作品はそもそも、とてもシンプル。世界中を歩く彼の視界に映るのは、歩んだ道やこれから進む風景です。日本にも数回来日し、紀伊半島を歩いた作品などを残しています(「紀伊半島を歩いて」和歌山県立近代美術館)。

 もうひとつ、フルトンの作品に特徴的なのは、ことばとの融合でしょう。彼のことばは欄外のキャプションではなく、作品に重なって置かれることで一体化します。デジタルを用いた新しい作品では、次々と浮かび上がる単語による表現を試みています。俳句や禅の影響も感じられるこれらの作品は、オフィシャルサイト(http://www.hamish-fulton.com/)でたっぷり鑑賞できます。

 本誌では、石が導く岬への道(イギリス)、遊歩道に標した彫刻作品(ドイツ)なども紹介しています。その歩みは、後半で登場するブルース・チャトウィンやイザベラ・バードの視線にもつながっていきます。彼らの歩みを眺めながら、自らの“歩行の経験”を考えてごらんになるのも面白いのではないでしょうか。