足でブレーキをかける自転車があるのをご存知ですか?
 最近は、ペダルを逆回転するとブレーキがかかる方式のビーチクルーザも日本で増えているので、さほど珍しくはないかも知れませんが、それでもハンドルにブレーキ・レバーが付いていない自転車に初めて乗るのは怖いもの。やはり普通の日本人には、自転車のブレーキは手でかけるという固定観念があります。しかし、カナダ、アメリカ、オランダ、スウェーデンといったヨーロッパ系の国では、フットブレーキが日常的に使われているどころか、ギアチェンジなどの操作を足でする自転車もかなり普及しています。
 出版されたのは少し前ですが、『手の日本人、足の西欧人』という面白い本があります。著者の大築立志さんは体育学の専門家。スポーツにおける足の使い方に興味をもっていましたが、この足ブレーキの発見をきっかけに、ある疑問が頭に浮かびます。〈「たくみさ」とか「上手」という概念を表わす日本語は、「手」に関係しているのに、英語でこれに相当する「スキル」という言葉は「手」に関係がないことに興味を覚えていた。日本人は、サッカーのような、足技だけでできているようなスポーツを評価するのにも、平気で「上手・下手」という「手」を使った言葉を用いているのも不思議であった。〉
 著者自身の実地調査によると、デンマークやスウェーデンでは50パーセント、自転車先進国で知られるオランダでは実に80パーセント以上はハンドブレーキがない自転車だそうです。この自転車の違いを枕に、日本人と西欧人で手足の捉え方が違うことに関する考察を深めます。足に関する慣用句が日本語に比べて英語やフランス語に圧倒的に多いのはなぜか? 日本舞踊ではなぜ手を繋がないのか? 野球はなぜ日本でこれほど人気があるのか? など様々な事例を通して、日本文化と西洋文化の違いについて論じられています。そして、この本を読むと、まだまだわれわれ日本人には、農耕民族だった頃の身体の記憶が残っていることがわかります。
 さて、秋号で赤瀬川原平さんは、この本を援用し、今度は日本人と手との関係ではなく、日本人と足の関係に注目します。そういえば、アメリカ映画で、机の上に靴を履いたまま足をのせているというシーンを日本人が見るとドキリとしますが、やはりそこにも日本人特有の感覚があるんじゃないか……ここから、夏号の「土下座問題」へと移り、無宗教といわれる日本人の心の奥底に潜む身体感覚を探ります。赤瀬川原平さんの大和魂「夏の甲子園での土下座」にご期待下さい。