自我が眠りにつくとき、もうひとつの扉が開く。夢占い。冒険。創作。探求。記憶。――古の人は、夢を畏れながらそこに真実があると信じていました。現代の私たちにも夢はさまざまなものの源泉であり、尽きない謎です。
 冷たく暗い季節だからこそ、豊かに輝く世界を探訪したいと思いました。
 特集の巻頭をかざる魅惑的な作品をご紹介します。

●マルク=アントワーヌ・マチュー「夢の囚われ人 ジュリウス・コランタン・アクファク」
 パジャマ姿のおじさんが、不条理な事態に巻き込まれていく――。『夢の囚われ人』は何度目を覚ましても夢の世界が続く、小役人・アクファクの物語。フランスの漫画、バンド・デシネ(BD)の未邦訳の傑作です。夢や幻想的なものを題材にしたBD作品はたくさんありますが、『夢の囚われ人』は夢の荒唐無稽さを再現している点で、見事というほかありません。BD評論・翻訳家の原正人さんは、「マチューの独創性は、夢が物理的現実の虚構性を暴き、世界そのものを根底から揺さぶる点にある」といいます。マチューは空間演出家でもあり、その経験を生かした構成も作品の魅力を後押しします。3D加工やコマの切り抜きなどの仕掛けが現れては物語と絡まります。

●長崎訓子「私たちは夢でできている。」
 昨秋に初の漫画集『Ebony and Irony』を発表した長崎さんは、今までに見た夢をヴィジュアルとして再現してくれました。「たいへんよく寝て、夢もたくさん見る」長崎さんはどんな夢を披露してくださったのでしょうか。浴室が氷河期になってタカアシガニが出現!? ページいっぱいに広がる彩り鮮やかなイラストをご堪能ください。

●石川直樹「野性を目覚めさせる睡眠」
 辺境への旅も多い写真家の石川さんは、旅する中での印象深い眠りの体験を、数点の写真とともに紹介してくれました。ミクロネシアの島での昼寝三昧、6000メートルの高所で睡眠をとること、気球上での睡魔との闘い。「身体の要求に素直になって目を閉じたとき、眠っていた野性は覚醒する。」そんな眠りについて、石川さんは考えます。

 三者三様、深く謎めく眠りと夢の世界をお楽しみください。