7月10日(月)
日曜日二週にわたって放映されたテレビドラマ「
ゆとりですがなにか 純米吟醸純情篇」を見る。昨年放送されたドラマの一年ぶりの続編。登場人物の一年後が描かれる。
脚本家の宮藤官九郎さんのコメント。「続編というのは苦手なのですが、彼等のような、定点観測に向いているキャラクターならば、時々思い出してみるのも悪くないかなと思い、さしあたって1年後の彼等の成長や後退を描こうと思っています」
このドラマの登場人物はかなり深くキャラクターが掘り下げられていると思う。岡田将生も松坂桃李も柳楽優弥も安藤サクラも、不器用な立ち振る舞いがリアルで、ほかのドラマや映画に出ている彼らを見ると、つい素の彼らを「ゆとりですがなにか」の彼らだと思っていることに気づく。クドカンのドラマにしかないマジックだ。決してゴールのないドラマなので、永遠に定点観測を続けてほしい。Hulu配信スピンオフドラマ「
山岸ですがなにか」の大賀の怪演はもっとすごかった。
7月11日(火)
下北沢のB&Bで、加藤典洋さんと上岡伸雄さんの対談イベント「
9・11後の世界と敗者の想像力」。上岡伸雄さんは、ドン・デリーロやフィリップ・ロスの翻訳で知られるアメリカ文学者。9・11後の世界と敗者の想像力『
テロと文学 9.11後のアメリカと世界』という新書もある。加藤さんは一か月前に紹介した『
敗者の想像力』を出されたばかり。
今回の対談は、上岡さんが訳したベン・ファウンテンの『
ビリー・リンの永遠の一日』(新潮社、クレストブックス)を加藤さんが「
波」で書評したことから実現したそうだ。
「なぜこんな理不尽な戦争をアメリカは続けるのか。なぜ、ブッシュ、またなぜ、トランプなのか。誰もがいつまでもあの「アメリカの夢」から醒めることができないから、というのがこの小説の書き手の考えである。主人公ビリー・リンもこの夢のなかにいる。夢の中にいて彼は苦しんでいる。しかし、夢から出られない。」(
加藤さんの書評より)
二人の話は、
サリンジャーやカート・ヴォネガットの戦争体験から始まった。満員で熱のこもった会場だった。
7月12日(水)
第16回
小林秀雄賞から、公式発表媒体が「考える人」から「
新潮」にうつるので、その打ち合わせを小林秀雄賞の座長の中島さん(
新潮選書編集長)と矢野さん(新潮編集長)と「Webでも考える人」のSさんと私でおこなった。
今年は「
新潮」10月号に選評や受賞作品の抄録を掲載することに決定。
「
Webでも考える人」では、8月18日(金)に速報を流すほか、追って受賞者インタビューなどを掲載いたします。第1回から第15回までの過去の小林賞の選評や受賞者インタビューなども随時サイトにアップしていく予定。過去の小林賞の選評・インタビューを今読んでみると、世の流れが感じられてなかなか面白いです。
7月13日(木)
水野祐氏の『
法のデザイン——創造性とイノベーションは法によって加速する』を読む。法律関連の本ということでとっつきにくいかと思ったが、そうでもなかった。
水野祐氏は、2011年に、アーティスト集団
Chim↑Pomが、渋谷駅構内の岡本太郎の壁画《明日の神話》に、東日本大震災で被災した福島の原発を想起させる絵画を付け加え、刑事事件として立件された際に、検察庁に提出した意見書のなかで、アーティスト側にたち、芸術行為の社会における有用性について論じた気鋭の弁護士。アフターインターネット時代の新しい法の設計を考える。「法の役割は果たして規制のみだろうか」という問題意識を持つ。
シティライツ法律事務所という事務所名は、ビートニク文学の発祥の地であり、アメリカ西海岸の知や文化の発信地でもある、サンフランシスコの「
City Lights Books」に由来するそうだ。
話は、二次創作、3Dプリンター、ドローン、人工知能、ビットコイン、ブロックチェーンにまでかなり具体的に及び、考えたことのないことをかなり考えさせられた。法や法律家を表現の敵だと思うべきでないと実感させられた一冊である。
7月14日(金)
京都市内のホテルでおこなわれた、第5回
河合隼雄物語賞・学芸賞の授賞式・パーティーに出席する。この賞の授賞式に出席するのははじめて。チェリストのミニコンサートなどもあって楽しい会だった。会場にバッハやドビュッシーや黛敏郎が鳴り響く。
物語賞を『
あひる』でとられた今村夏子さん、学芸賞を『
落語に花咲く仏教 宗教と芸能は共振する』でとられた釈徹宗さん、財団代表の河合俊雄さんらにご挨拶する。河合俊雄さんが「
新潮」7月号に書かれた「『騎士団長殺し』における 絵画の鎮魂とリアリティ」がかなり刺激的だったことなどを話す。
「考える人」前編集長の河野通和さんにも三か月ぶりにお目にかかった。元気そうでよかった。暑いなか、少しだけ祇園祭の街の空気を味わった。