特集には、小林家長女の白洲明子さんにエッセイを寄せていただきました。父・小林秀雄が親友河上徹太郎と語りつくす晩年の肉声(付録CD収録)を耳にし、白洲さんはなにを思われたのでしょうか。

 ……内容よりまず父の声から、お酒のまわり具合が手に取るように感じとれ、酔っぱらった姿が目に浮び、懐かしさで胸がいっぱいになりました。幼いころから私にとって父は酔っぱらいの父なのです。

 白洲さんは、幼少のころから酔っぱらったお父さんを迎えに行っては、夜道の案内役を務めなかよく帰路についていたそうです。晩酌を中心とした生活のリズムや、酔うと饒舌になる様子など、小林秀雄の魅力あふれるよっぱらいエピソードを紹介してくださいました。うわさ話や愚痴を嫌い、真っ向から議論を挑むというくだりからは、小林秀雄ならではの酔いの哲学が浮かび上がります。

 白洲さんの父との思い出はお酒にまつわるものだけではありません。美術館やギャラリー、クラシックのコンサートなど、父・小林秀雄と共に出かけては楽しむ機会をたくさんお持ちでした。

 物心ついてからの私の京都への初旅行は父と一緒でした。移動の車中で私は寝てばかりいました。「お前さんよく寝るなあ」「だって京都ってつかれるもの」「そうだなあ」(「骨董」)

 白洲さんは、鎌倉「扇ヶ谷の家」「山の上の家」での暮らしや、日々のできごとを数々のエッセイに綴っていらっしゃいます。骨董品を日常的に使っていたことや、泥棒に入られたときの父母の対応ぶり、年を取るにつれて変わる生活、最後のお花見。やさしいまなざしで描かれる文章から、あまり知られていない小林家の生活を生き生きと感じることができます。
 これらのエッセイは、小社刊『小林秀雄全作品 別巻3』にまとめられています(「父・小林秀雄」)。本誌とあわせてどうぞお楽しみください。