海辺を散策する姿や骨董を見つめるまなざし。小林秀雄を写した印象的なポートレートは数多く残っており、写真家たちを魅了していたことがうかがえます。巻頭のグラフでは、厳選した作品をほぼ年代順に掲載しました。田沼武能、田村茂、土門拳、濱谷浩ら、時代を代表する13人の写真家が写した横顔です。

 土門拳撮影の打合せ風景は、おそらく創元社時代のものと思われるたいへん珍しい一枚です。とっくりを傾け(名対談再録の扉)、蕎麦を味わう様子は、行きつけだった東京日本橋の室町砂場でのもの。蕎麦屋での酒と語りを好んだ小林を捉えた連作です。グラフの扉と付録CDの袋には、「新潮」800号記念座談会でのやわらかな笑顔を選びました。朗らかな表情は、河上徹太郎と今日出海という、気の置けない親友たちとの鼎談ゆえでしょうか。これらの写真は、ぜひ本誌でお確かめください。

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 被写体としての小林秀雄だけでなく、小林の生きた時代や彼が撮影した写真を楽しむことができる、とっておきの2冊をご紹介しましょう(ともに小社刊)。

『小林秀雄 美と出会う旅』白洲信哉編
 西洋絵画、日本画、骨董。本書は小林秀雄の美の世界を追った一冊です。彼の愛した作品とそれらにまつわる文章が収録されているので、小林秀雄の哲学を作品とともに味わうことができます。西洋絵画は「ヨーロッパ美術館めぐり」と題し、今日出海との海外旅行をもとに構成。小林自身がシャッターを切った写真や、今日出海が写した小林の姿からは、旅先でののびのびした雰囲気が伝わってきます。
圧巻なのは「骨董交遊録」です。青山二郎、白洲正子、青柳恵介らとの交わりから浮かび上がる小林の骨董への執心ぶりが丁寧にまとめられています。

『新潮日本文学アルバム 31 小林秀雄』
 こちらは写真と資料で小林秀雄の一生をたどる人物伝です。一見コンパクトな体裁ですが、幼い頃の家族写真や尋常小学校の成績表から、卒業論文の表紙に直筆原稿の数々、住まいの遍歴まで、小林に関する資料がぎっしりと掲載されています。プライベートを写した写真のなかには、野球やゴルフに興じる場面も。ゴルフ仲間の作家・川口松太郎が寄せている、微笑ましいエピソードをご紹介しましょう。

 コースへ出ると、どっちも絶対に相手を褒めないばかりか、悪口のいい合いだ。……
「あんな池、越すのは何でもないじゃないか」
「あんたはお上手だから、越すさ、わしゃ下手だから遠まわり、池越の一発を見せてくれ」
 小林はカッとなってチョロしてボールを池へぼちゃん。
「おみごとでした」「こんちくしょう」
 ……大体こんな具合で文学の神様もからきしだらしがない。
(「ゴルフと祝めし」より)

 同時代を生きた作家たちについての資料も随所に鏤められており、読み進みながら、小林の生きた時代を追体験することができます。

 本誌と合わせて、写真から広がる小林秀雄の世界をご堪能ください。