考えてみれば、日常生活での読書は、人知れず行われるもの。だからこそ「あの人はどんな感じで本を読んでいるのだろう」というのは少なからず興味のあるテーマです。「考える人」編集部が「本を読む現場を見せてください」と厚かましくお願いし、ご自宅までお邪魔させていただいたのは……、詩人の小池昌代さん、やはり詩人のアーサー・ビナードさん、小説家の水村美苗さん、そして脳科学者の茂木健一郎さんです。特集のなかで「私の読書術」と題して、お話をうかがいました。

 小池昌代さんは、お訪ねしたその家にまず気持ちが動きました。昭和三十年代には日本の普通の住宅とはこうだった、という懐かしい風情の木造の二階家。そして、本棚もまた素晴らしい。これも「昔の本棚って、こうだったよね」というもの。それも小ぶりのものが三つだけ。「一種の恥かしさもあるでしょう、本の話をすることには」とおっしゃる小池さんの少数精鋭の本はいったいどんなラインナップなのでしょうか?

 詩集『釣り上げては』で中原中也賞を受賞したアーサー・ビナードさんは、実は自宅ではなく、池袋図書館が読書のホームグラウンド。一九九〇年に来日してまだ一年ぐらいの頃、日本語学校の先生が教材として取り上げたある童話が、ビナードさんを日本語の世界に引きずりこんだそうです。そして、この図書館で毎年、ビナードさんは子どもたち相手に「なるほど」という「ある役割」を担って大歓迎されているそうなのですが……。

 読売文学賞受賞作『本格小説』で多くの読者に「久しぶりで本格的な小説を読んだ」と唸らせた小説家、水村美苗さん。ご自宅に一歩入ると、ここは本当に日本だろうか?と疑いたくなるようなお宅でした。たとえばそれはアメリカのコネチカット州にある品のいい別荘のような室内とでも言えばいいでしょうか。なかでも書庫は小ぶりの図書館と思えるような、特別に設計されたもの。しかし書棚をよく眺めてみれば、そこには日本の古い本がたくさん並んでいました。

 脳科学者の茂木健一郎さんは、地方に出張するたびに古本屋めぐりをするという「古本ハンター」でもあります。書斎には小林秀雄が書いた葉書や夏目漱石直筆の絵などがさりげなく飾られていました。これらももちろん古本屋で入手したもの。茂木さんは小学校時代からの筋金入りの濫読派ですが、今熱心に集めつづけている昭和四十年代の「科学」の本があります。見せられた編集者が思わず「懐かしい!」と声をあげた本とはなんでしょうか?

 四人の方々の読書をめぐるお話をうかがいながら、「書棚は人なり」とあらためて思った取材でした。みなさん、どうもありがとうございました。