「ヨーロッパの身体性」連載のきっかけ

「ヨーロッパの『身体』について、日本人はまじめに考えたことがあるかな? これだけ影響を受けているのに、どうもそこを忘れている気がするんですよ」

養老孟司さんのそんな一言から、ヨーロッパへの取材が敢行されました。ただ、さすがに何度も行けるほどの余裕は、金銭的にも時間的にもありません。テーマをしぼって全6回分の取材を一度に行う、ということになりました。

全行程は2週間ほど。まずはドイツのフランクフルトに舞い降り、ハプスブルク家の心臓埋葬について在野で研究を続ける心臓内科医、ディーツさんを訪ねます。その後、陸路国境を越えてオーストリアへ。ザルツブルクに足を伸ばしつつ、ウィーンに入って、地下や墓地、医学史博物館などを歩き回りました。さらに列車での移動を続けて、チェコへ。車でセドレッツの世界遺産を訪ね、プラハでは、ユダヤ人の墓地と町を、ヘブラ・カデッシュという自治組織の女性に案内してもらいました。旅中、暇があればお墓を探して見に行くことも繰り返していました。

というわけでの濃密な疾走の2週間。それが今回の連載と相成ったわけです。

連載第1回はウィーンに残るハプスブルク家の埋葬について、2回目は心臓信仰と南部ドイツで大切に守られている黒の聖母について、3回目はチェコ・セドレッツの骸骨堂におけるヨーロッパの死の表象について、4回目はプラハに残るユダヤ人墓地を訪ねてのユダヤ教の信仰について、5回目は再びウィーンに戻り、19世紀末という激動の時代における「治療ニヒリズム」なるものについて論じてもらいました。そして夏号掲載の6回目は、5回目から派生してヨーロッパの「自己」を考える内容となる予定です。

この後、7回目以降は、養老さんの人生をかけたテーマである「身体性」における重要な要素「墓」について、写真を数多く交えてご紹介するつもりでいます。そこで一息をつく、という編集計画なのではありますが、当初全6回の予定でスタートしながら、すでに7回以上に及ぶ連載。そこはどうなるやら……養老さんのあの頭脳がなにを生み出すのか、連載は風向き次第です。

ヨーロッパの身体性っていったら、中欧だけじゃないでしょう? そんな声も聞こえてきそうです。はい、その通り。実は南欧取材を秘かに計画中でして、さらなる続きがあるやもしれません。お約束はできませぬが、どうぞお楽しみに!