数式が美しい、この証明はエレガントだ――。数学に携わる人たちがよく口にする表現が、ずっと気になっていました。数学が美しいってどういうことなのだろう? そんな疑問から始まった特集です。人種や言語の隔てなく、論理に貫かれた最もシンプルな学問であり、無数の未解決の問いと答がかくされている。どこまでも広がるその世界を考えたいと思いました。インタビューでは、数学を愛してやまない三人にご登場いただきました。

天才数学者は、変人とはかぎらない 円城塔

 小説家の円城塔さんが教えてくれたのは、20世紀の数学界を牽引した二人の天才、ダフィット・ヒルベルトとアンドレイ・コルモゴロフです。学問的な業績はもちろん、抜群の組織力・実務能力を備えた手腕にスポットライトを当てて、数学者たちの住まう世界をご案内くださいました。
「数学者には、紙と鉛筆だけではなく、交流のための旅費も必要です。数学は人と一緒にするものなんです。数学者の交流には、多分、正気を保つためという意義が一番大きい。」

人は数学に何を求めてきたか 伊東俊太郎

 数学の魅力を五千年の歴史とともに語ってくださったのは、科学史家の伊東俊太郎さんです。数学を厭うのはもったいない、合理的思考を養う精神的スポーツとして数学を楽しもう! と素敵な提唱をしてくださいました。
「『数』と『形』の発見は、人類がもった最初の抽象度の高いものだったと思う。ユークリッドなんて、論理をたどっていくとびっくりするよ。こんな喜び、ないじゃないの。」

人工知能は数学を理解できるのか 三宅陽一郎

 三宅陽一郎さんはAI(人工知能)開発研究のエキスパートです。意外なことに、数学を駆使して構成されるAIにも苦手な数学があるそうです。
「概念とシンボルに基づく思考をプログラム上で実現することがAIの第一の課題と言っていいでしょう。AIに数学を理解させてみたい、と思います。単に方程式を解くといったことではなく、わかったときの腑に落ちる感覚をAIに味わわせることが出来るのか。」

 インタビュアーを務めてくださったのは、科学/哲学ライターの山本貴光さんです。山本さんには特集の企画段階から関わっていただいており、道先案内人として、イントロダクション「数学の愉悦を味わうために」と「現代数学マップ」や、ブックガイド「発見と難問の森に遊ぶ」を寄稿していただきました。また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授テレンス・タオの論文「素数の研究」の訳出もお願いしています。

 各人の数学愛と哲学を存分にご堪能ください。