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ご自身のルーツから、「私は”何人”か」と悩んだこともある安田さん。彼女がたどりついた答えは、このタイミングにこそ読んでいただきたいです。
テレビ番組「ハク学の壁」で、「ムショ」の語源が話題になったことから、ランキング急上昇! 「刑務所」の省略じゃなかったの!?
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9月18日(月)
朝あけると台風は過ぎ去っていて暑い。とうとうレベッカ・ソルニットの主著『ウォークス 歩くことの精神史』を読み終わった。本文490ページ。タイトルからすると歩行についての学者の書いた文化史のようだが、そうではない。

東日本大震災のころに、日本でも『災害ユートピア』という本が話題になったカリフォルニア生まれの作家。フィクション作家ではないが、日本でいういわゆるノンフィクション作家とは違う。エッセイストというのも違う気がする。大学に属さない独立研究者というのがもっとも適した説明だろうか。

何かの結論に向けて議論をすすめるのではなく、「歩くこと」について様々な知見をもとに横断的に思考をめぐらせていく。ゆっくりと毎日少しずつ読むと、その話題の横滑り感と文章のリズムが心地よい。
 

「ある春の日、歩くことについて書こうとしていて、やはり机は大きなスケールの物事を考える場所ではないと思い直してわたしは立ち上がった。ゴールデンゲート橋の北側の、見棄てられた要塞が点々とみえる岬のほうへ、谷を上り、尾根筋に沿って太平洋の岸辺まで下りていった。」

「哲学者たちはよく歩く。しかし、歩くことについて考えた哲学者は多くはない。」

ジャン=ジャック・ルソー、ウィリアム・ワーズワース、ヘンリー・ソローなどなど、数々の先人の言葉が引用される。なんとなく「考える人」とも縁のある人々である。 1961年生まれにこういう書き手がいるのかと思うと心強い。そして、少しずつほかの本も翻訳されたら、読み続けたい。2014年に、「マンスプレイニング」(Mansplaining=Manとexplainを掛け合わせた造語)という言葉とともに、「教えたがりの男性」を論じた本が刊行されたらしいが、これなどは日本でも話題になりそうだ。(ちょっと自分に思い当たる節がないわけでもない(-_-;))

9月20日(水)
白水社の編集者Sさんが出来たばかりの岩松了さんの新刊『薄い桃色のかたまり/少女ミウ』を持って遊びにきてくれる。「薄い桃色のかたまり」は蜷川幸雄が高齢者の役者を中心に作った、さいたまゴールド・シアターに向けて書かれた作品で、10月1日まで彩の国さいたま芸術劇場にて上演中である。

岩松了さんのファンだという柴田元幸さんの推薦文。柴田さんの戯曲の推薦文ははじめて見た。
 

「このふたつの戯曲は、震災を扱っているから重要なのではない。震災を扱って、最終的にはそのこと自体がポイントではないところに達しているから重要なのであり、だからこそ震災を扱った意味もあるのだと思う。」

ずっと彼女の話を聞いていたら、明日初日のこの舞台を私も猛烈に見たくなってきた。行けるかどうか、慌てて手帖を開く。この気持ちがうずうずしてくる感じが観劇の楽しいところだ。

9月21日(木)
同い年で16年間ぐらい親しくさせてもらっている小説家、小野正嗣さんと久々に食事。お互いの環境が変わっても定期的に会ってきて、まるで大学時代からの友人だったように勘違いしたりする。定点観測のようにいつでも話が出来る友人は大人になると貴重だ。

9月22日(金)
千駄ヶ谷の国立能楽堂でおこなわれる新作狂言「鮎」の制作発表記者会見に顔を出す。野村萬斎さんの生の声に酔う。

10年ぶりの新作狂言だそうで、作者、池澤夏樹。演出・主演は野村萬斎。12月22日、23日に公演の予定である。

元は池澤さんが25年くらい前に書いた同名の短編小説で、『骨は珊瑚、眼は真珠』に収録されている。南米の鴨にまつわる民話を、舞台を日本の加賀に代え、小説としたものだが、今回は更にその骨格を狂言に仕立て直す。40〜45分ぐらいの作品になるらしい。

池澤さんは20代の頃には萬斎の祖父の野村万蔵家に出入りするほど狂言にハマっていたが、しばらく足が遠のいていたそうだ。数年前に能楽堂に文章を頼まれてから、野村萬斎さんと交流がはじまり、一年前から新作を作る運びとなったらしい。

新刊『池澤夏樹、文学全集を編む』を読んでいるとよくわかるが、河出書房新社での日本文学全集の編纂が、池澤さんの創作意欲に新しい火をつけているのを感じる。世界文学の中で日本文学の意味を新たに発見している。池澤さんにとって初めての戯曲だとのこと。

9月23日(土)
昨日の記者会見とタイミングが重なったのは偶然なのだが、新潮新書で出たばかりの安田登『能—650年続いた仕掛けとは—』を読み終わった。

この本、能の関連書で、興味がない人間が読んで、最も能の世界の中にすっと入れるものではないか。とにかく能を過去のもの=古典芸能ととらえるのでなく、その構造や効=能を今にいかそうという意識が強い。能と共に生きるにはどうしたらいいかを問う。随時、「能」の意味を問い直し、挑戦し続けている安田さんのパワフルさが紙面に滲み出ている。

そして編集者の力。9月14日の安田さんのツイート
 

「新潮新書『『能—650年続いた仕掛けとは—』。本日、発売です。特に「能って難しそう」という方にお勧めいただければと思います。某A編集者の厳しいツッコミを喰らいながら、能に全然親しんでいない人にも面白く読めるように出来上がっています!」

「今回の新書『能〜650年続いた仕掛けとは〜』ほど編集者の力を思い知った本はなかった。だいたいこういう本の場合、編集者と著者との間に軋轢が生じ(そこまで落として書けるか!みたいな)、多くは編集者が折れるのですが、A氏は折れない。それは固いんじゃなく、ゴムのように曲がるからですね。」

A氏こと足立真穂さんという写真週刊誌時代からの新潮社の同僚を褒めるのは恥ずかしいが、今の新潮社の名物編集者の一人である。彼女は著者に食い込み、自分で興味をもつと仕事とプライベートの境がないほど著者の研究分野に入り込み、きついジョークを言いあえるほどの深い信頼を勝ち取り、著者にほかの編集者がしないような根源的な問いを投げかけ、彼女にしか作れない本を作る。安田さんのツイートは、なんと足立さんの仕事を的確に表していることだろうか(昨日あった、安田さんと森田真生さんの対談イベント「能を、数学で、聞く」、私は「新潮」の校了前で行けなかったのですが、後日、当サイトに掲載予定です)。
 
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