日本におけるアメリカ研究の最前線にいる、慶應義塾大学教授の渡辺靖氏。本誌「考える人」で「カウンター・アメリカ」を連載したのは、2005~2007年のことでした。強固な外壁に囲まれたロス郊外の超高級住宅街、保守主義の牙城・アリゾナの巨大教会、ディズニーが創ったフロリダの町など、9つのコミュニティを丹念に調査。社会の多様性を象徴し、内側からアメリカを支えるコミュニティから、この国の本質に迫った論考は、『アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所―』として、2007年に単行本化され、話題を呼びました(2013年4月選書版を刊行)。
 その渡辺氏による本誌8年ぶりの新連載が「アメリカン・レガシー」です。

 この間、アメリカを取り巻く状況は大きく変わりました。2008年にはリーマン・ショックが起こり、翌年にはジョージ・W・ブッシュに代わり、バラク・オバマが大統領に就任。アフガニスタンやイラク侵攻によって「帝国主義」「覇権主義」などと批判された前政権に対して、オバマ大統領は「核なき世界」を訴え、ノーベル平和賞を受賞するなど、世界の中のアメリカの位置づけは徐々に変わりつつあります。
 同時に、「超大国としてのアメリカの役割は終ったのではないか」という「アメリカ衰退論」も巷間よく耳にするようになりました。その背景には、中国やインド、ブラジル、アラブ首長国連邦などといった新興国の台頭があり、世界のパワー・バランスに変化が生じつつあるのではないか、とする論者も多く見受けられます。
 はたして、「アメリカの世紀」は終わりを迎えるのだろうか――。
 このような問いにこたえる形で始まったのが、新連載「アメリカン・レガシー」です。
 衰退論がある一方で、20世紀を支えたアメリカの政治・経済・社会・文化にまつわる制度や価値は、世界中のありとあらゆる場所に浸透しています。こうした「アメリカの遺産(レガシー)」の世界的拡張を追いかけながら、その光と影について再考してみようというのが、新連載「アメリカン・レガシー」の主題です。
 アメリカ型高等教育や民主主義、キリスト教福音派に代表される宗教、「ロータリー・クラブ」に象徴される奉仕の精神、米軍基地、そしてビジネスのスタイルまで、その「遺産」を求めて世界中を旅しながら思索する、意欲的な論考です。