過日の夕焼けは見ものだった。天がぱっと黄金色に輝いたかと思うと、山吹色から橙色に、紅葉色を通り越すと、遠くの一点が藤色に染まり始め、あれよあれよという間に紫紺色が下りてきて、あとはつるべ落としの晩秋の眺めとなった。
 皆が足を止めて空を見上げ、信号待ちの車も車窓を照り返しで赤く染め、向き合う建物の窓は互いに金、橙、紫を反射させあって、窓の中にそれぞれの夕焼けを抱えている。

 

  
 日が沈むや、電話が鳴り始めた。カメラマンたちからである。各地から、
 「うちこそ一番の眺め」
 「前代未聞の赤」
 「色調整しなくてもそのまま行ける」
 はたして、夜から翌朝まで報道番組は<信じがたい色の夕焼け>の話題でもちきりとなった。テレビだけではなく、日刊紙もインターネット媒体も、アマチュアもプロもこぞって夕焼けを投稿、掲載したので、テレビもコンピューターも画面が赤々と燃えている。
 ローマ、フィレンツェ、ボローニャ、ミラノ、トリノと、イタリア半島の中央部から北部にかけて広大なキャンバスが広がった。
 早速、
 「赤い空は、大気汚染のせい」
 春からの雨量が少ない異常気象も相まってのこと、と警告が報じられた。
 ミラノでは晩秋から初冬の風物詩である霧すら下りない毎日である。早々に交通規制や重油によるセントラルヒーティング規制が市当局から発令されるかも、と思っていたら、
 「大気汚染が原因ではなく、冷気が上空で細かな氷の粒となり、特殊なプリズムを作り出したから」
 と、気象庁が概況説明をした。

 各地から届く写真は、絵画を超えて絵画的だ。
 でも不思議な現象が一日で終わってよかった。今から二〇一年前の一八一六年のちょうど今頃、北イタリアに赤い雪が降ったことがあった。その三、四年前から世界各地で火山が噴火して大量の火山灰が地球を覆い、一八一六年は五月から霜が下り、夏には雪まで降る異常気象となった。農作物は壊滅的な被害を受けて、餓死する人たちまで出る一大事となった。
 夏が訪れなかったせいで飼料作物もなく、牛馬が死んで馬車が使えなくなった。そこで発明されたのが、自転車だったという。
 秋も来なかった。ひとつながりになった冬の毎日、雨やみぞれが止まず、イタリアの海沿いに避寒し暮らした画家や文学者たちが、<赤い雪>や<黄色の空>を作品に昇華させている。

 たった一日の日暮れだったけれど、今ごろイタリアのあちこちで何か美しいものが生まれているのかもしれない。

 

 

イタリアから寒中お見舞い

あなたに似た人 」でご紹介した、 イタリア政府による美術館へのお誘いキャンペーン第三弾です。

「知っているあの子に会えるかも」
 

<Art looks like you>: ©2017 Ministero dei beni e delle attività culturali e del turismo
Collaboration with the Centro Sperimentale di Cinematografia, directed by Paolo Santamaria