これっぽっちも心のこもらない、薄っぺらな演説なんか聴きたくない! ネット全盛時代だからこそ聞きたい「力強い肉声」と「血の通った言葉」――それが、秋号で「人を動かすスピーチ」と銘打った特集を組んだ動機でした。形式的な講演ではなく、自らの体験に基づき衷心からあふれる真摯な言葉、いまそれを聞くことのできる最も熱い「スピーチの場」がTEDです。Technology, Entertainment, Designの知的異業種格闘技のようなアイディア発表の場を、日本人として初めてアメリカTEDの舞台に立った脳科学者の茂木健一郎さんは「日本の講演のあり方を一変させる新しい波」すなわち「黒船」と評しています。

ここから大きく羽ばたいたスターの一人が、サイモン・シネック氏。マーケティングコンサルタントとして、「インスパイアするリーダーや熱烈なファンを持つ企業は、凡庸な人や組織と何が違うのか?」を探求するうちに、人々の心を揺さぶる指導者や組織にはある共通項があることに気づきます。それが何かは、ぜひ本誌をお読みください。シネック氏がTEDで行ったスピーチの動画は全世界で1000万回以上視聴されています。

実はこのTED、日本で知られるようになったのは最近のことですが、アメリカではすでに30年近い歴史をもっています。創設者のリチャード・サウル・ワーマン氏は、『アクセス』というタウンガイド・シリーズをはじめ、80冊を超す著作のある建築家にしてデザイナーの多才な粋人。アメリカ東海岸ロードアイランド州の海浜リゾート、ニューポートまで会いに行ってきました。御年78歳ですが、その好奇心と行動力は留まるところを知らず、「もうTEDは卒業した」と言い放ち、新たに立ち上げた「インテレクチュアル・ジャズ」と呼ばれる新機軸の対話集会や、「アーバン・オブザーバトリー(都市展望台)」と名付けた都市比較など、あふれるアイディアを披露してくれました。かつてはファイアストン家の夏の別荘だったという豪邸の様子や、書斎に飾られた貴重な品の数々もあわせ、ぜひカラーグラビアでご覧ください。

スピーチ特集といえば、当然、古今東西の名スピーチも押さえておかねばなりますまい。医学界きってのメジャーリーグ通にして、大のスピーチマニアでもある向井万起男氏が、ウィンストン・チャーチルから長嶋茂雄まで、ユーモアたっぷりに紹介してくださいました。向井氏はいったい誰の演説に涙したのか、それも読んでいただいてのお楽しみです。