2011年3月の東日本大震災で未曾有の経験をした東北の人たちの粘り強さ、お互いを思いやるやさしさを知り、東北という地域について改めて考えてみたいと思うようになりました。東北の人々は自然との相克のなかで独自の文化を育んできました。その源を探るために「東北巡礼」の旅は始まりました。
 第1回の青森県弘前市久渡寺の「大白羅大祭」を皮切りに、岩木山神社の「お山参詣」、東松島市の「月浜のえんずのわり」、福島県相馬郡の「福田十二神楽」、秋田県羽後町の「西馬音内盆踊り」、青森県五所川原市の「川倉賽の河原地蔵尊」、岩手県大舟渡市三陸町の「吉浜のスネカ」、山形県飽海郡の「大御幣祭と花笠舞」、そして2013年秋号の福島県南会津郡の「会津田島祇園祭」まで、9ヶ所を取材させていただきました。
 取材にご協力いただいた方々には、本当にお世話になりました。連載の文章を担当した吉本直子さんによれば、今回の東北巡礼のなかで最も強く印象に残ったのは、人々の心にある「代」という意識だったそうです。
 たとえば、東松島市の「月浜のえんずのわり」では、震災後の余震と不安定な生活のなかで、中断も検討されたのだそうですが、その年の大将を務める小学生の「俺の代で終わらせるわけにはいかない」という言葉が大人たちを動かし、福島県相馬郡の「福田十二神楽」では、中高校生の神楽師が次の代の神楽師候補の小学生たちに百日道場とよばれる特訓を厳しく温かく授けています。そして、秋田県羽後町の西馬音内盆踊りでは、代々受け継がれた着物を纏って、人々は踊るのです。
「代の継承」というと、人を束縛するものだと捉えられてしまう場合もあるかもしれません。しかし、東北各地で文化を継承している人たちに強く感じられるのは、「代」を担うということは喜びに向う積極的な行為なのだという思いです。
 過去から現在につながり、現在から未来へと延びていく、その現在という一瞬に、自分ができること、なすべきことに想いを馳せる。伝統と変革、先人の願いと自らの願いを撚り合わせて、未来へ延びる長く太い綱を作っていく。この綱には、人々の思いが新たなエネルギーとして流れ込んでいくのです。これが、私たちが「絆」と呼ぶものなのかもしれません。「東北巡礼」で、そんな東北の人々の思いに触れていただければと思います。


 かわって新たに始まったのが、四方田犬彦さんの「母の母、その彼方に」です。

 2001年10月、イタリア・ヴェネツイアで四方田さんは1通のメールを受け取ります。四方田柳子という女性を知らないか――同姓だが心当たりはないと返信するも、その女性は、かつて四方田さんの祖父が住んでいた箕面の出身だということが判明。この謎の人物に惹かれて出自を調べるうちに、百年の時を経て思わぬ事実に出会うことに……。
 母、祖母、そしてもう一人の存在。明治・大正・昭和を生きた3人の女性たちを時代の中に瑞々しく映し出す長編エッセイです。
 きっかけとなったメールを受け取ったとき、四方田さんはちょうどヴェネツィアで開催されていた伊日研究学会で『鏡花、新派、日本映画』と題する講演を行ったあとでした。泉鏡花の代表作『婦系図(おんなけいず)』は、女性の出自起源を探求し、その系譜をたどる試みであるという発表趣旨だったことが、偶然にも今回のできごとの伏線のようになっています。
 このようなドラマティックな幕開けから、よどみない筆致で四方田さんの幼少期の思い出、家族の証言、そして明らかになる新事実が次々と描かれ、早くも次の展開が気になります。是非お楽しみに。