日常の暮らしの中で、日々、私たちはどれだけ“色”を感じているといえるでしょうか? たとえば、いつもの通勤、通学の風景の中で、家やオフィスの中で、あるいは夢をみるときに、あなたは色を感じているでしょうか?……
 2013年秋号からスタートした「日本の色と言葉」の連載は、色の豊かさを、いま改めて見出そうと試みるページです。著者は、京都・嵯峨釈迦堂で染織工房を営む、染織作家の志村洋子さん。お母様は人間国宝であり、名随筆家である志村ふくみさんです。母娘にわたって伝統的な染織の技を継ぐ、美の職人といえるでしょうか。
 毎回、藍、朱、紫、緑、と特定の色をテーマに取り上げ、その色がいかに染められ、織られていくか、また色にまつわる情緒豊かなエピソードを紹介していきます。ちなみに第一回は、藍色です。

 幼少の頃から染織の仕事場がいつも身近だった洋子さん、しかし、改めてその美しさに魅入られたのは、「藍建て」の不思議さを感じてからといいます。
 藍の色は、「藍建て」から生まれます。「藍建て」とは、蓼藍(たであい)という植物を乾燥させたすくもを作り、それを大甕に仕込んで、発酵させたものをいいます。その「藍建て」の大甕の中に、刈安という染料で黄色に染めた糸を垂らすと、一瞬のうちに鮮やかな緑色、エメラルドグリーンに変わります。しかし、その瞬間にして現れた緑は、また一瞬にして、今度は消え失せてしまいます。そして、だんだんと洗練された藍色へと落ち着いていくのです。その刻々と変化していく色の様子は、本当に見事なもの。自然の神々しささえ感じてしまうほどです。

 志村洋子さんは不思議なことをいいます。「藍建て」は「生きている」のだと。大甕に寝かされた「藍建て」は、その仕込み中は、必ず最低でも一日一回、甕に手を入れかき回さないと、色が「死んでしまう」のだそうです。まるで糠漬けのようですが、これも糠漬けと同じように、かき回す人によって染め上がる藍の色合いが変わってくるといいます。またこれも不思議なことに、「藍建て」の色が満ちてくるには周期があり、月の満ち欠けに大きく関係しているのだといいます。
 日本古来の伝統色、藍は、このような過程で生まれてくるのです。

 連載「日本の色と言葉」はこれから先も、紫根から生ずる平安期の「滅紫」、正倉院の「名物裂」、唐招提寺の「曼荼羅図」、高野山の「霊木」等々と、様々な日本の伝統色を紹介していきます。さらに伝統的な日本の色だけにとどまらず、ヨーロッパ教会のステンドグラス、モスク(イスラム寺院)のタイルなど、私たちの感性を揺さぶる世界中のあらゆる色も網羅していくつもりです。
「美味しいものを食べたりするのと同じ感情レベルで、色の美しさを愛でること。いかに日本には、その美しい伝統があったか、きっと気づくはずです」――著者の語る、本連載のコンセプトです。