上記のような特集タイトルをつけた冬号では、気持ちよく働く全国の25人を取材しました。60年、70年と仕事を続けてきた先達の言葉には、重ねた歳月の重みがずしりとのっています。

 闇市の小さな店からスタートした大阪の喫茶店マヅラを経営する劉盛森さんは言います。「社会の役に立たん商売はダメ。一杯のコーヒーでくつろいでもらえる。疲れを癒してもらえる。社会にお返ししとると思えば気分ええやん」。戦火をくぐり抜けながら嫁ぎ先の居酒屋を守り、94歳の今も大鍋の前に立つ女将は、軽やかにこう語ります。「働き通しだけど、働きすぎて死ぬってことはないのよ」。思い出の着物を日傘に再生する83歳の傘職人・鎌田智子さんは、作った傘の写真ひとつ手元に残さずお客さんに返してしまう理由をこう説明します。「誰かの心に残れば、それでいい」のだから、と。
 東日本大震災による大津波で筆舌に尽くしがたい被害を受けた後も、それでもやはり海に戻っていく若き漁師(牡蠣養殖)佐々木学さんの言葉も胸に刺さります。
「辛いことがたくさんあっても海で働いていると気がまぎれる。『こんなに恵みをもたらしてくれる海で、おれは生きていくんだ。自分には海しかないんだ』と思えるから」
 戦後の高度成長、バブル経済とその崩壊、つづく20余年の停滞を経る過程で、私たちの労働観は大きく変化しました。そしていま、金儲けよりも、心の充足を価値基準とする人たちが増えてきたように思います。

 北海道の羊飼い、酒井伸吾さんは、主要国首脳会議の晩餐会に供されたり、高級レストランから引き合いがあるほど評価の高い羊を飼育しながらも、築50年以上の古い家を修繕しながら暮らし、4人の子どもが遊ぶシーソーやブランコもすべて自作。息子と自身の髪もバリカンで刈るような質素な暮らしに満足しています。
「羊飼いになりたくてなったのに、効率とか収益ばっかり考えて、俺は何やっている? となるでしょ。そんな不幸なことはない」
 まさに、「足を知る」を体現するような生き方です。
 働くことは生きること。様々な人生を垣間見ていると、視線は必ず自分に戻ってきます。今日の仕事、明日手がける仕事は、本当に納得のいくものですか? 
 この特集が、生き方を振り返るきっかけになれば幸いです。