話を元に戻そう。
 前に、「答えのない教科書」こそがAI時代の教育・人材育成のヒントだと書いた。それは言い換えると、「常に探究する姿勢」である。AI時代が来なければ、今までどおりの「暗記型」の勉強でも大丈夫だったかもしれないが、これからは、AIがどんどん社会を変えていくので、過去の成功パターン(過去問、面接の受け答え練習等々)を丸暗記する方法が通用しなくなる。つまり、「探究型」でないと生き残れない。
 読者諸氏にお願いしたいのは、まず、ご自分のこれまでの人生が暗記型であったのか、それとも探究型であったのかを分析することだ。以下、いくつかの質問を書いてみるので、あてはまるかどうかをチェックしながら読み進んでみてください。

問1 掛け算の九九の表は「ににんがし」から「くくはちじゅういち」まで全て諳んじている。

問2 「鳴くよ(794年)ウグイス平安京」という具合に歴史年号は、ほとんど語呂で覚えた。

問3 試験を突破するために「試験に出る英単語」みたいな頻度順の英単語の参考書で勉強した。

問4 物体の落下距離xと時間tの関係は、x=(1/2)gt2で、gは重力加速度で9.8だと覚えているが、なぜ(1/2)がつくのかを考えたことはない。

問5 試験のための一夜漬けをしたことが何度もある。

問6 クイズ番組で、自分が知らない知識をたくさん知っている人を見ると、「この人、すごく頭がいい!」と感心する。

問7 学校で、先生にたくさん質問をして嫌がられた経験がある。

問8 二次方程式の解の公式を導くことができる。

問9 算数や数学の「証明問題」が好きだった。

問10 会社の会議で、論理的に討論するのは得意だが、単なる感想を述べる人を見ると時間の無駄だと感じる。

問11 大勢の人を前にして、自分で工夫したプレゼンをするのが好きだ。

問12 教科書や参考書でできない問題があると悔しくて、答えを見るのを我慢して、長時間かけて自分で解いていた。

 いかがだろう? 前半の6問目までは、いわゆる暗記型、そして、後半の6問が探究型の特徴をあらわしている。もし、前半部分の質問に対して「イエス」が多く、後半に対して「ノー」が多かったら、あなたは、どちらかというと暗記型の人生を歩んできたにちがいない。逆に、前半が「ノー」、後半が「イエス」という傾向ならば、あなたの人生は探究型だといえるだろう。

 もし、あなたが探究型なのであれば、AI時代の到来は、何も怖くない。これまでやってきたのと同じように、AIの仕組みを探究し続ければ、あなたは、AIを良き友として迎え入れ、便利な道具として使い続けることができるだろう。
 あなたは、ホワットよりもホワイに興味がある。だから、学校では計算が遅かったかもしれないし、受験の成績もトップではなかったかもしれないし、浪人した経験があるかもしれない。でも、社会に出てからは、逆に数学が得意だと感じるようになった(はずだ)。あるいは、歴史の流れを理解したり、仮想通貨の仕組みを勉強するのが好きになった(はずだ)。
 探究型のあなたにとって、現在進行しつつある第四次産業革命は、ワクワクドキドキする新展開であり、怖さよりも期待感で一杯のはず。なにしろ、探究すべき課題が次々と社会に登場するのだから。
 
 もし、あなたが暗記型なのであれば、AI時代の到来は黄色信号だ(赤ではない)。あなたは、これまで、持ち前の暗記力で、数々の困難を乗り越えてきた。参考書で勉強して、効率よく解法のパターンを覚えてきた。学校や塾では、受験に最適化された教育を受け、難なく受験戦争を突破し、就職の面接も事前にパターンを練習して乗り切った。会社に入ってからも、先輩から仕事のパターンを教わり、そつなく仕事をこなしてきた。
 だが、それは、あなたが、たまたま、社会の安定期に人生の大半を送ってきたからゆえの成功体験なのだ。暗記型は、膨大な知識を効率よく吸収できるから、「このパターン、この知識を覚えれば勝てる」という状況では断然、有利にはたらく。
 でも、産業革命の進行期、戦争、株価の暴落、仮想通貨の登場、災害復興のような変動期には、あなたの頭の中にある膨大な知識やパターンは通用しない。すべてが「想定外」だからだ。答えはどこにも書いてない。答えはあなた自身が考え、工夫し、探して、試行錯誤の末、「創り出す」しかない。
 AIがどこまで会社の仕事を代替するのか、会計処理をAIがやるようになったら会計士は何をすればいいのか、自動運転はどれくらい普及するのか、物理的な貨幣が消えてお金も全てデジタルになるのか、クルマは空を飛ぶのか、介護現場にロボットは進出するのか。たくさんの予測はされているが、本当にどうなるのかは、誰にもわからない。
 暗記型で生きてきたあなたにとって、怒濤のように押し寄せるAI、ロボット、IoT、ビッグデータの新たな波は、もしかしたら、人生初で、最大の試練になるかもしれない。
 ただし、まだ諦めるのは気が早い。あー、ワタシは暗記型だったのか、AI時代には通用しないのかー、と、落胆する必要はない。まずは、自分の思考パターンが暗記型だったことを把握した上で、対策を講じればいいだけの話だ。